制服巡査もヤンデレになる事ってあるんですね?(元ネタ:警察官ストーカー殺人事件より)

その日は、お盆が過ぎたとはいえまだ全体的に

日中は元より夜になってもその不快な暑さは

非常に堪ったものでは無い晩の事だった。

そして、このアパートも他の近隣のアパートや

一戸建て住宅のご他聞に漏れず

夏は蒸し暑く、冬は堪らなく寒い仕様の造りである。

そのアパートへ、1人の男が訪ねてくる。

無論、この訊ねる相手は1人暮らしの若い女性の住む

アパートの2階の部屋だ。このアパートは家賃こそ格安だが

それ故にあまりいい評判を聞かないのか入居する者が

あまり居ない。むしろこのアパートに住んでいるのが

あろう事か今、これから男が訪ねる相手である

女性がただ1人なのである。


そしてこの1人暮らしの女性を訪ねているのが

何と制服姿の警察官であった。

この時間帯にしては、何か不思議である。事情聴取なら何も

そう遅くない頃に就寝を控えようというこの時間帯に、

何もアパートを訪ねなくても出来るだろうに?

一般常識を知ってる者なら、そう思うはずであった。

だが、この警官は何かがおかしい。

目の瞳からは光沢が失われ虚ろに感じられる。

正に死んだ魚の様な目になっている。

やがて、その1人暮らししている

若い女性の部屋のドアが開けられ

その警察官は入り込んだ。

そして幾ばくかの言い争いの後に

銃声らしき音を数える程、鳴ってから間を置いて

部屋の電気が消された後、

一度だけ鳴り響いた後に沈黙と静寂が訪れた。


何やら不審に思ったアパートの大家が、様子を見に行った所

そのアパートの住人と、制服姿の警察官が射殺死体で倒れていた。

すぐに大家は警察を呼んだ。

呼ばれた警察の捜査一課は唖然とした。何故ならその巡査長は

自分たちの居た所轄の警察署の地域安全課で

午前中において自分らと擦れ違ってたのを確認したからだ。

その巡査長の名前は友川秀久で、当年とって38歳だ。

そして被害者の女性は伊藤洋子さんで、

職業は飲食店店員、年齢は28歳である。

無論、この二人は知人同士だ。その後、警察の捜査によると

このアパート近くにおいて1ヶ月以上前から、

電柱の陰でアパートの様子を窺う

40歳ぐらいの男が目撃されており、

前日の夕方にも目撃証言があった。

捜査本部は男が友川巡査長だった

可能性があるとみて関連を調べる。


調べでは、伊藤さんはTシャツにショートパンツ姿で、

胸と腹を2発撃たれ、貫通した銃弾で床に穴が開いていた。

寝かされた状態で撃たれたとみられる。

巡査長は左胸を1発撃ち、

あぐらをかく様な状態であおむけに倒れていた。

拳銃は警察の貸与品で、5発装填され、

1発は弾倉に残っていたが、残る1発は不明という。

巡査長はその日の15:30ごろから同僚と交番に勤務。

21:30ごろにバイクで苦情処理に

1人で出かけたまま、連絡が取れなくなった。

翌日5:00ごろになっても戻らないため、

署と捜査1課が別々に行方を捜した。


同僚が署内のロッカーで伊藤さんの勤務先の名刺を発見。

捜査1課が巡査長の携帯電話の位置情報から、

伊藤さんのアパート付近にいることを突き止め、

署の上司が同10:40ごろアパートに入り、

6畳間で2人の遺体を発見した。遺書はなかった。


大家が21:30~22:00に、銃声のような音を4回聞いていた。

アパート外にバイクが止められたままで、

捜査本部は、巡査長が苦情処理に向かわず、

交番から約3キロのアパートに直行したとみている。

そしてその結果、この現場になっていた。


捜査本部が調べた限りだと、この友川巡査長と伊藤洋子が

この顛末を迎える原因を探る事とした。

そして過去を辿って行くと、こうだった。

それは今より4ヶ月くらい前に時間を遡る。


洋子は、新年度を迎えて1カ月以上経ったある日。

以前から自分にしつこく、つきまとっている男に絡まれてた。

その日もその日して、勤め先の飲食店に

これから昼下がりから夜の閉店までのシフト勤務に及ぶべく、

いつもの道を歩いていた。するとそこに見るからして

ネットにおいて「DQNドキュン」と呼ばれる

如何にも第一印象の良くない男に絡まれていた。

洋子は断り続けているとその男は、

自分を一向に拒み続ける彼女のその姿勢が鼻につくのか

不快な顔して彼女を人気の無い所に連れ込み押し倒して

乱暴しようと試みた。すると背後からその男の

腕を掴んで捻りあげる者の姿があった。

「痛ててて!何しやがるッ!?放せコラッ!!」

男が思わず後ろを見ると1人の巡査の姿があった。

「な、何だよ。ポリかよ?何すんだ、放せッ!?

庶民の税金でメシ食う立場が、

庶民に暴力振るっていいのかよッ!?」

するとその巡査も負けじと言い返す。

「じゃあ、女性にしつこくつきまとい、人気の無い場所に

連れ込んで乱暴しようとしているお前はどうなんだ?」

さすがにDQN男も、実際に試みようとしてただけに

これには反論致しかねる。

その巡査は相方に取り押さえたDQNを任せる。


「ありがとうございます。」

「いえいえ。お怪我はありませんでしたか?」

「はい。とても助かりました。」

これが友川巡査長と洋子の出会いであった。


それから友川巡査長と洋子は、親しい交流を深めていた。

友川は洋子が勤務する時間帯を窺って来店していた。

店主も他の店員や常連客も、友川の事を大いに

気に入っていた。中には、友川が洋子と結婚しても

おかしくは無いという者も居たくらいである。


ただ、その中に1人だけ友川の事を

快く思っていない者が居た。それは店主の次男だ。

次男はその友川に関する情報を知り合いを介して

集め続けた結果、彼に関して胡散臭い話が沢山出た。

彼は警察官になる前、結構悪評のある人物だ。

それというのも少年時代に、隣人の若い独身女性の事を

盗撮や盗聴をやってたばかりか、自分の悪友を介して

悪友の実家の病院や病院に出入りしている業者が持ち込んだ

薬剤を貰っては手製の催淫剤を調合して、彼女の食べる

手土産のケーキに仕込んで強姦を試みたというのだ。

店主の次男はその事実を洋子に知らせてたが、

洋子はそれをまったく信じてなかった。そう、最初は。

だが事件の2ヵ月前ぐらいに、洋子は友川が

自分の元に姿を現すのが不自然な事に思え出した。

偶然にしてはあまりにも出来すぎている。

そう思って、最初は意に介さず取り合わなかった

店主の次男に相談して見た。すると次男は

「やはり、俺の言ったとおりだったな?」

洋子がそれを聞くと、唖然とした。

それというのも友川はストーカー体質の性格と

気質の持ち主で、それの為に催淫剤や

盗撮や盗聴のための機器でも何でも取り扱える

マニアでもあったのだ。彼が警察官になったのも

巧妙な手段を用いて違法行為をしている者から、

取り締まりの際に事前に教えてやったり、

彼らが警察に知られたくない案件や闇物資の

やり取りを不問にする代わりに、自身の必要な

物品の密売を要求するなど闇の人脈があったりしたからだ。


これを知った洋子は、それより少し経ったある日

友川に対し別れ話を持ち出した上で、友川に

勤め先の次男が教えてくれた話であるという上で

警察署に知られたくない不都合な事を語らない代わりに

もう二度と自分に関わらないでと言いつけて去った。

それが事件の発生する1ヶ月半前の事だ。


洋子の事を愛憎取り混ぜ、忘れられぬ友川は

その後もこの1ヵ月余りの間に、

ありとあらゆる手段を用いて洋子の事を窺い続けた。

だが、そこへ来て友川にとって事態が急変した。

彼らが、警察からの摘発されるのが時間の問題であるのだ。

そうなれば自分も彼らと癒着していただけに

逮捕は不可避であり、このままでは洋子とは

完全に一切の関係が途絶するは解り切っている。

洋子とは別れたくない。されど彼らの摘発により

彼らと癒着していた自分の逮捕はもうすぐ迫って来ている。

悶々と眠れぬ一夜を過ごしていた彼は

遂にある考えに行き着く。

(もう今の俺には残された時間は無い。)

そして犯行当日を迎えた。

彼はその日の15:30に夜間勤務のシフトで交番に

やって来た。その晩の、21時を少し回った時間に

交番のテレビでは闇物資を取り扱う密売グループの摘発の

ニュース映像が流れていた。

そして21:30に友川は同僚に、交番に入った

電話から苦情処理に行くと題してバイクで交番を後にした。

それから友川が洋子のアパートで犯行に及んだ頃、

署の取調室において、闇物資の密売グループの

リーダーと思われる男が取調官から締め上げを受けていた。

そして翌日の朝から始まった締め上げに

とうとう男は根負けし供述していた過程で

自分らとの関係において友川巡査長の存在を自白した。

これに驚いて署は友川のロッカーから

洋子の写真と勤め先が書かれたモノを見つけた。

やがて洋子のアパートに向かった。

そして冒頭に至る。


更に、新たに入った情報によると

洋子の勤め先の飲食店店主の次男が前日夜から

戻ってきてないというのを知り、その行方を

捜査した所、その次男の遺体が発見された。

どうやら、彼は友川にとって、洋子との関係破綻の

元凶として見做されたのか、洋子のアパートに向かう前に

友川が飲食店店主次男が友達と別れて1人になった所を

見つけて、廃屋に連行し射殺したと思われる。

その結果、この事件は被疑者死亡により

書類送検という形で幕を閉じた。

この事件は警官と知人女性の無理心中事件だけでは無く

この街の警察にとってこの上ない恥辱として

人々の記憶に留まる結果となった。


翌日の飲食店店主次男とそこに務めていた

伊藤洋子の告別式がしめやかに執り行われ

両家の親族や親交のあった多くの人たちの

悲しみの涙を誘ったのである。



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