知らんかった。あの兄弟にもう一人兄弟が居たとは?(元ネタ:高島忠夫長男殺害事件より)

ゆうじは手に持ってるスマホに付いている機能の

テレビで一人の芸能人の逝去の一報を見た。

「な!?あの人が亡くなられただなんて!?」

ゆうじが驚くのも無理は無い。

何故ならその人とはゆうじが小さい頃、視聴していた

毎週土曜日に放映していた映画の解説をしていたあの人であったからだ。

その人の名は「横島忠夫」なる人であった。

そしてその横島には二人の息子さんがおりどちらも

映画やドラマ、バラエティで活躍しているからだ。

「そういや、ゆうじよ。あの横島忠夫に実は、

かつて長男が居たのを知っているか?」

おバカがゆうじに言う。

「かつて長男が居た?今居るあの二人の兄弟は

長男と次男じゃないのか!?」

ゆうじが言うのも無理は無い。芸能人の家庭事情にあまり詳しくないので

その辺に関して疎いのも仕方ないからだ。

「そうだ。あの二人の兄弟は次男と三男に過ぎないのだよ?」

「百歩譲ってあの二人が次男と三男として、肝心の長男は

何処に行ったんだよ!?まさか婚外子か私生児っていうんじゃ、あるまいな?」

「いいや。確かに婚外子でも私生児でも無く、もし生きてれば

あの二人の兄弟だった男が、かつて存在したのは事実だ。」

「それってどういう事なんだ?訳が分からないよ!?」

「なら、その辺を教えてやろう。」

おバカは語り始めた。

彼によると、その横島忠夫にかつて存在していたという長男がおり

その名は道夫という。但し、その道夫は生後半年足らずで死亡していたという。

「生まれてからすぐに死んだ?どういう事だ?何らかの病気を患ったのか!?」

「残念だが、病死じゃねえ。殺人事件が原因で死んだんだよ?」

「家に入って来た強盗にでもやられたのか!?」

ゆうじは半ば、うろたえる様に言った。

「その辺も含めて教えてやろう。」

おバカはゆうじのうろたえる様を他所に、淡々と語り始める。


おバカの語りによると今から数十年以上も昔の事だった。

当時、横島忠夫は当時の同世代と比較して結婚が遅く

結婚してからも仕事が非常に忙しく、家庭で過ごす猶予が

あまり無かっただけに長男の生誕を非常に誰以上にも大喜びしていた。

だが、それから半年になろうかという時期に

忠夫はいきなり息子を失うという悲劇に見舞われたのだ。

その事件とは、複数居る住み込みの家政婦の中の最年少の家政婦から

「道夫ちゃん(当時生後5ヶ月)が見当たらない」と

うろたえて、それを横島夫妻に伝えたのが事の発端だ。

それを聞いた横島夫妻がその家政婦と共に、家中を探し回った。

家中は物色されており、風呂場できちんと蓋の閉じられた

浴槽の中に沈められている長男の道夫を発見し大騒ぎになった。


警察と消防が呼ばれるのと同時に、長男を浴槽から出し

すぐに自宅から一番近い医院に運び込んだ。

だが道夫は既に心配停止状態になっており、人工呼吸はじめ

数々の手段が試みられたが、それの甲斐も無く道夫は死亡が確認された。

通報を受けた警察はそれの状況から殺人事件として捜査を開始した。


事件に最初に気がついたその家政婦は、警察の捜査員の問いに対し

「その日の晩に不審な人物が家の様子を窺っているのを見た」

「長男が激しく泣き出しているのを聞いた」

などと証言した。


だが警察はよくよく調べていると

・家政婦以外に不審者を見た者が存在しない。

・家政婦以外に長男の鳴き声を聞いた者は居ない。

・この横島家では犬を飼っており、この犬は不審者が近づくと

激しく吠えるのに、その日の晩は吠えてない。

・普段、全員が入浴を済ませると家政婦が風呂の浴槽の栓を抜くのが

決まっておるのに、その日は何故か風呂の栓が

家政婦によって抜かれていない。

・犯人が窃盗目的でこの横島家に侵入してたのなら、

その犯行の一部始終をその長男に見られたとしても、

生後5ヶ月の乳児が目撃証言出来るはずも無く、

その乳児を殺すというのは余りにも不自然。

・長男を浴槽に入れて、きちんと蓋をして立ち去るのも不自然である。


など次々と不自然な部分や矛盾が露呈して来たため

そのところを家政婦に問い質したところ、

その日の午後1時頃、遂に犯行を認めた為、逮捕となった。


その後、自供した家政婦の犯行の理由とは

この家政婦は元々、横島夫妻のファンであり

地元の中学を卒業してから都内のとある区の会社で働いてた。

そしてその区にある会社に、たまたま居た

横島夫妻の知人の紹介で卒業したその年の暮れから

その横島家で住み込みの家政婦として働ける事になった。

横島夫妻はこの家政婦をよく可愛がり、家政婦も横島夫妻に人一倍尽くしていた。

だが、横島夫妻に長男が生まれてからは

「長男に愛情が移ってしまい、自分は疎遠に扱われがちになった」と感じた。

そして横島夫妻が仕事でアメリカに行くとなった際に

「他の家政婦にはお土産を買う約束したのに、自分は何も言われなかった」

と思い悩みその果てに犯行を思いついた。


その犯行の瞬間


犯行当日、その家政婦は横島夫妻の食事の後片付けを済ますと

午前零時を回ってから一人で入浴していた。

入浴を済ましてから自室に戻ると、隣の部屋から長男のぐずる声が

聞こえ出したため長男の部屋に来たところ、

長男は家政婦の足を掴むなどしてきたため、家政婦としては

この姿を可愛いと思いすぐに抱きかかえて庭先で夕涼みも兼ねて

長男を抱いたまま、あやしていたりした。


その後、足が汚れたので足を洗おうと風呂場に向かっていたが

このとき家政婦は「この赤ん坊さえ居なければ横島夫妻の

愛情が再び私に戻るのかもしれない」と考えてしまい、

気がついたときには長男を浴槽に沈めていた。


長男は激しく咳き込み、もがき苦しんでいたが

家政婦はそれでも長男を浴槽の中に抑えつけた。

やがては「このままでは犯行がバレる」と思い、

風呂場から出た後に、窃盗犯による仕業に見せかける為に

家中を物色された様に装っていたのだ。


その後、事件のあった日の翌日に横島家では通夜が行われ

多数の芸能人や映画やドラマ関係者や横島夫妻と

個人的に付き合いのある者が弔問に訪れた。

祭壇には長男の笑顔の写真が掲げられ、又お気に入りであった

ぬいぐるみや玩具なども飾られ、多くの弔問客の涙を誘った。

通夜の後に行われた記者会見であったが、妻は心労が重なったため

とても記者の質問に返答できる状態ではなく、

結局は横島忠夫が一人で記者会見を行ったという。


そして裁判ではその家政婦は当時17歳と未成年ではあったが

成人と同様に殺人罪として起訴され、懲役3年から5年の

不定期刑となった。その後、出所したものの

実家からは既に勘当・絶縁を申し付けられ世間からは

芸能人の子を任されていながらそれを果たさず殺した

稀代の悪女と罵られたため精神を病み、出所した年の

12月の半ばに橋から飛び降りて入水自殺を遂げた。


これがおバカによる事の顛末であった。


「そう・・・だったのか・・・・・・。」

ゆうじは初めて、芸能界の華やかさとは裏腹に

そういう闇の部分もあった事を理解した。

「まあ、これは何処の世界でもあり得る宿命かもな?」

そう言っておバカはこの豪邸「日本閣」に隣接している

自身の豪邸である「旭日楼」へと戻って行った。


そして空がオレンジ色に染まり辺りに夕闇が迫ってる。

星の光のような灯りが点灯している街を見下ろしながら

ゆうじはニュースで逝去が伝えられた横島忠夫が、

既に赤ん坊の内に早世してしまった長男の道夫の

元へ赴いてそこで改めて親子水入らずの

暮らしを謳歌するのを切に願っているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る