生首の涙。

薄暗く、四方上下を見回しても冷たいコンクリートでしかない

壁と床と天井。どうやらここは何処かの建物の地下室の様だ。

その片隅には何やら取り出されはらわた

手足や胴体が切られたバラバラ死体がある。

その多くの中に混じって、ひとつの髪の長い生首があった。

その生首はどうやら女子高生と思われる女性の頭部である様だ。

そしてその生首だけとなってる女の子の目からは、

心なしか一筋の涙が頬を伝った。

まるで私は何でこんな惨めな姿にされてしまったのかと呟いてる様に。

では、何故そうなってしまったのか?

時間をこれより巻き戻して見る。


グレーのコンクリートの造りをした廃墟同然の建物を

見上げる四人のブレザーの制服姿の女の子たちが居た。

「ねえ、ここを一度探検してみない?」

「そうねえ、いいかも?」

「少しぐらい、いいじゃない。」

女の子たちは興味津々。

「でも何か不気味。」

その四人の中で長い髪の女の子が不安そうに言う。

「何よ、英美。まさか怯えてんの」

この四人の中で背が高く髪が短くてボーイッシュな感じの女の子が言う。

「いや、そんな訳じゃないんだけど。」

そこへ、星井陽一郎ほしいよういちろうが通りがかって言った。

「お姉ちゃんたち。その廃墟に何か興味でもあるの?」

すると英美はすぐに反応する。

「キミは何か知っているの?」

「うん。その建物は昔は病院に委託された研究所みたいだったよ?

でも、何年かぐらい前に国と県と医師会か何かの

方針で予算が削られてからは潰れちゃったみたいなんだ。」

「そうなの?」

「うん。でも最近、街の大病院の院長の息子のひとりが

親に勘当されてここの出入りしているって噂があるみたいなんだ。

入るなとは言わないけど、もし変な気配を感じたらすぐにでも

逃げ出した方がいいよ?そいつ最近まで実家で引きこもってた為、

体形がおデブで動きが鈍そうだからすぐに判ると思うよ。」

要するに陽一郎としては、この今からこの廃墟に入って

探索して見ようと思った女の子たちに、

ここに入るのはオススメ出来ないと、遠回しに言いたいのだ。

そういうと陽一郎は、去って行った。

もしここで、彼女たちが陽一郎の言うとおりに

断念していれば、後の悲劇は回避出来ただろう。

だが、興味本位な事に胸が一杯な者にとって

その様な警告は、女心を理解せぬただの野暮な事としか思われない。


結局、彼女たちはこの廃墟同然の建物の中に入って行った。

彼女たちは玄関から入ると皆々、個別に分かれて内部の探索を開始した。

この選択が後に最悪な結末になる事を知らずに。

それからしばらくしてそこへ陽一郎が戻って来た。

それというのも彼はどうも彼女たちの事が心配になったのか、

あれから一時間近くして戻って来たのだ。

無論それだけでは無い。陽一郎はこれより少しばかり前に

その自身が言ってた大病院の院長と理事長である

両親に勘当されたという息子のひとりが、

この廃墟に戻って来たのを知ったからだ。

ちなみに陽一郎の言う男の事について触れておこう。

その男とは今西呟蔵の三男である隆夫の事だ。

彼は小さい時から他の3人の兄弟に劣らぬ程、

学力も知識も教養も非常に申し分ないくらいの優秀だった。

その彼がおかしくなったのは大学を卒業し大学病院に勤務した辺りだ。

それというのも、法医学において司法解剖や行政解剖などに

少しばかり携わった際に遺体の解剖に立ち会った事で、

解剖に人一倍興味を持ってしまった事に由来したのだ。

無論、医学に携わる者としてはそれだけなら問題は無い。

むしろ、一日も早く一人前の医師として立派になりたいという意味では

必要な仕事に対する意気込みであり、一人前の立派な医師に一日も早く

なりたいだけの向上心の表れともいうべきである。

ただ、この男の場合はそれを何処か間違った方向でそれを覚え

それを解釈しそれに興味を持ってしまったのか、解剖を愉しむ様になったのだ。

というのも最初は死んだ昆虫やクマネズミを解剖する事から始まった。

それだけならまだ何の害は無い。あくまでも医学における後学の

範疇としてに留められた。ただ、この男はそこから段々とエスカレートして

自動車に轢き殺された野良犬や野良猫、他にも捕らえた生きたカラスやら

砂浜に打ち上げられたイルカやクジラの赤ちゃんまでも解剖し

遂には死んだ人間の遺体にまで手を出し始めたために、

これを危険視した院長や理事長である両親から勘当を言い渡され

精神科への処置入院まで検討されてしまった。

法医学の過程で性的趣向として目覚めてしまった彼からすれば

これを不当な仕打ちに思えたのか、彼は姿を消してしまった。


女の子たちが入って行った廃墟の建物を見て

陽一郎が逡巡していた所へ、通りすがりの一人の巡査が声をかける。

「キミ、どうしたんだい?」

「お巡りさん。丁度いい所に来てくれたんだね?」

「何かあったのかい?」

そこで陽一郎は今までの事を打ち明けた。

「四人の女子高生が、この廃墟の中へ度胸試しに入った?」

巡査は思い込んだ。そりゃ今時の女の子は一部に下手な男子よりも

男性的な性格の一面があり冒険心が少なからずあるのが居るのも判ってる。

それにこの巡査も警察官になるための試験を受け警察学校に入るまでは

結構、あちこち探検した経験はある。小さい頃は街のはずれの

山のふもとの古い民家寄りの裏手にある

旧防空壕に入り込んだ事すら経験した。

巡査としては冒険してみたいという気持ちも判らなくは無い。

だが、それで危険が伴ってはイカンとも思う。

「あ、そうそうお巡りさんは今西隆夫っていう人、知ってる?」

「今西隆夫?そういや、この街の大病院の理事長と院長の

4人居る息子さんのひとりにおったな?確か半年前に

実家を勘当されたって聞いたが。それが何か・・・?」

「うん。その人が実家を追い出された理由が昔、法医学で

司法解剖とか行政解剖に携わった過程で何か他人に理解出来ない

性的趣向を覚えてしまったのが原因なんだって?」

「人から理解されない性的趣向・・・・・・ッ!?」

そこで巡査は何かを思い出した。

確か、ここ半年前から少なくとも5人の若い女性が

行方不明になっているというのを記憶している。

その行方不明者というのが上は28歳から下は19歳までとなってる。

若い女性が行方不明になり出したのが今より半年前、

その今西という男が実家を勘当され姿を消したのも半年前。

そいつが借りられる住宅など少なくともこの街には無い。

もしも、この廃墟となってる建物の何処かに

そいつが隠れ潜んでるとしたら恐いもの見たさで

この建物に入った4人の女の子がもしそいつと鉢合わせになったら

それこそ最悪の事態は想像に難くないだろう。

「キミ、早くお家に帰りなさい。」

「お巡りさんはどうするの?」

「僕はこれから署に連絡して応援を呼ぶんだ。

いいね?早くお家に戻るんだ!?」

そういうと巡査はバイクを飛ばし派出所に戻った。

そしてそこに居た巡査部長たちに打ち明けた。

「え?あそこの廃墟に女子高生4人が入って行った?」

「それで、その女の子が危険って?」

「半年前に実家を勘当された大病院の息子さんのひとりが

あの中に入り浸っているとしたらどうする?」

「まさか!?」

巡査部長は懸念した表情になる。

「どういう事ですか部長?」

「あそこの息子さんのひとりに隆夫っていう男が居てな?

昔、監察医としての資格を得たんだが、あの男は

解剖に携わった過程で猟奇的な趣味に目覚めたんだ。

実家を勘当された理由が死んだ患者の遺体を

資格を得たのを好い事に勝手に弄ったのが原因とされている。」

「そ、それじゃ・・・・・・」

派出所の面々は段々、蒼白になる。

「大川巡査、お前は中原巡査ほか2名と共に

その廃墟に向かいなさい。後は俺が署を説得しておくから」

「判りました。」

そう言って大川は中原ら3名とともに廃墟に向かった。


時間を他所に建物の中に入って行った女の子たちに戻す。

まずは野畑美希。この4人の中で背が低く

髪をツインテールにした童顔の少女は他の3人と別れ

階段を登って3階に居た。中にある所長室とされた部屋や

宿直室などを探索していた。一通り見終わると

後は打ち合わせどおり玄関口に戻るだけ。

そう思って階段に差しかかろうとしたその時、

背後から抱きつかれ慌てて悲鳴をあげながら振り解こうとした。

だが口に布を当てられた上にその布には麻酔薬が染み込ませてあり

やがて美希は意識を失って床にだらりと崩れるように倒れた。

謎の人物は、成功した事に対しニヤリと笑う。


そして高野ユリ。髪をセミロングにしメガネをかけている彼女は

2階の探索を担当していた。そこは研究室だった名残りなのか

床には書類や理科室でも見かける様なガラスの器材が落ちている。

中には落とした際に割れた様なモノまである。

人体模型も何やら不気味だ。一通り見回すと早くここから出ようと

下りるための階段に行こうと向かった。第一研究室だった部屋を

出たばかりの所でいきなり背後から襲われた。

手口も美希のときと同じだ。布に染み込ませてある麻酔を吸い込んで

たちまち気を失って床に座り込もうとするかのように崩れる。

その謎の人物は上手く行ったとばかりに笑う。


次に天山寺里美。この4人の中で一番背が高く、

髪が短く顔つきも中性的なボーイッシュな感じのする女の子は

1階の右回りを歩いている。そこは事務室や応接室になっている。

その各部屋を見回すと、今回の事の言い出しっぺとしての責任か

すぐに切り上げて玄関口に向かおうとした。

あとの面々の誰かがきっとそこに居る者と思った。

するといきなり鼻と口を布で覆われた。

必死にもがき振り解いてこの不審者に反撃してやろうとしたが

布には麻酔が染み込ませてあったのか、意識が無くなり出し

全身に力が入らなくなり、床にうつ伏せとなって倒れた。

不審な男は、まるでバカめとでも言いたげな顔で笑う。


そして最後の湯月真奈。この4人の中で里美に次ぐ背の高さで

髪もストレートのロングヘアになっている。

1階の左回りを探索していたが、見れば見るほど

床は色んなモノが散らかり、壁にはヒビが入ってたりと

余計不気味さを演出している。この建物のトイレは残念だが

使う事は出来ない。もう一通り見回したし、もう戻ろう。

そう思って元来た廊下を辿り、その角を曲がれば

玄関口はもうすぐそこだ。そんな時である。

角を曲がった途端、腹に当身を食らわされ

すぐ鼻と口に布を当てられる。その染み込ませてある麻酔で

意識が遠のいて行きやがて不審者に

もたれ掛る様に前のめりになった。


そして真奈は目を覚ました。

だがそこはまったく違う場所だ。しかも薄暗く

四方の壁も天井も床もコンクリートで覆われている。

おまけに何やら生臭いというか、かいでて不快な臭いがする。

そこへ太っててお腹が出ている様な体形した全裸の男が現れた。

どうやら、この男が陽一郎の言ってた

大病院の院長と理事長夫妻の息子の様だ。

しかも真奈自身は既に制服を脱がされて全裸にされ口にはガムテープで

塞がれて声が出せず手足を縛られている。しかもテーブルをよく見るとどれも

若い女性ばかりの生首がある。その中には彼女の知った顔も

生首となって置かれている。ツインテールを解かれて

髪を下ろしているとはいえ美希であるのは間違いないし、

メガネを取り外されたがその顔は間違いなくユリだ。

そしてあの無念な表情したボーイッシュな短髪と

中性的な顔は里美なのは確かだ。

テーブルの上に置かれている生首の女の子たちは彼女たちだ。

「ふふふ。興味を持ってこんな所にまで来てくれるなんて、

キミはホントに良い子なんだね?嬉しいよ。

そのお礼として僕がキミにお持て成しをしてあげるよ?」

そう言うとこの太った体形の如何にも、世の中のどの女の子をしても

ウザくてキモいと言わしめる見た目の男が抱きつくなり、

全裸になってる真奈の身体のあちこちを触りだし、

乳房を揉んだりお尻や太ももやお腹を撫で回したりして堪能する。

真奈は思わずおぞましく感じる。

自らの股間を弄くって勃起させようとしつつ、空いた手で

真奈の下腹部から下を弄くり出す。乳房や股間を刺激され

思わず真奈はもだあえぐ。

やがては殺されるかも知れないのに。何とかここから逃げなければ

ならないはずなのに。性感帯を刺激される度にその逃げようという

意思が揉み消されてしまう。こんな事されてる場合じゃないのに。

逃げよういう意思とは裏腹に身体は性的な刺激に反応するだけだ。

散々性感帯を刺激されそれでエクスタシーになるとグッタリとした。

そして真奈は股間から身を刺し抜かれるようなものを感じた。

最初は激痛が走り、そして抜き差しを

繰り返される内に性的な快感へと変化した。

何度も抜き差しをされ続け、遂には性的な快感がピークに達した。

やがてグッタリすると男は、真奈の喉の頸部けいぶを手術用のメスで

真横から切り込んだ。真奈はいきなり喉の横側を切りつけられ

激痛に襲われたかと思うと、そこから鮮血が噴出し

真奈は急速に意識を失っていった。そして首を切断されると

身体のあちこちを切り刻まれ解体され始めた。


そして冒頭に戻る。生首だけになった真奈は

他の女の子の生首と一緒にテーブルに置かれた。

生首だけとなった真奈の目からは一筋の涙が頬を伝った。

もう既に死んでいる筈なのに、生首になっても目に涙を浮かべ

頬を伝うのは彼女のせめてもの意思なのだろうか?

そんな彼女の事を知らぬ気に、男は身体を解体するのを楽しんでいる。

するとそこへ何名かの巡査が踏み込んできた。男は振り向き様に驚く。

そして男はその場で逮捕となった。


この出来事はその日の内に全国のニュースのトップに及ぶほどの

事件として大々的に取り上げられた。

そしてこの事件の被害者の数は女性ばかり合計で16人となった。

後にこの男、今西隆夫は裁判で求刑通り死刑判決を受け

上告したが棄却され、刑の確定から2年後に刑の執行となった。


事件発覚から数日後。

「やはり、女の子は男子の真似なんかして探検ごっこするより

しおらしくしていた方が無難だったのかもね?

まあ捕まったアレもどうせ死の報いを受けるんだし

これで無念が晴れて浮かばれるといいよね?」

事件現場となった廃墟の建物が重機によって解体されて行くのを

見届けると星井陽一郎は、その場を後にして沈み行く

真っ赤な夕陽を追いかける様に、街の中心を目指す様に歩き出した。

「さて、今夜は中華の店で食事にしようかな?

それともカレーの店へ行こうかな?

あ、でもお好み焼きというのもいいよね?」

陽一郎の頭の中は、既にどの飲食店で晩飯を食べるかになってる。

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