警官は誰が為に存在するのか?(元ネタ:荒川放水路バラバラ殺人事件より)

とある昼下がりの事だった。

こちら側の河川敷から対岸の河川敷までの幅が

10メートルはあろうかの広さの河川があった。

この河川は近くの住民たちからは、

放水路ともいう別名でも呼ばれており、流れも非常に緩やかで

あり水深も全体的に浅い為、その河川の流れの中心にでも行こうとしない限り

溺死のリスクは非常に小さいのである。

それのおかげなのか、夏場やその前後の蒸し暑い日は

家族連れによる子供の水遊びや遊泳に向いているのである。

その日、小さい女の子がその綺麗な川の水を手に取ったりして

楽しんでた時、新聞紙と油紙あぶらがみに包まれたモノを

偶然、女の子が見つけた。この子が調べて見ると人間の胴体の様だ。

「ねえ、ママー!どうして、このおじちゃん

お顔も、お手手も、あんよも無いまま紙にくるまってるのーッ!?」

それを聞いて思わずこの子の母親は「は?」と半ば不思議そうな表情を

浮かべながら女の子の許へ駆け寄る。

「どうしたの?お顔もお手手もあんよも無く紙に包まってるって?」

そう言いながら、その紙に包まってるモノを見てみる。

それを見た瞬間、この女の子の母親が悲鳴を上げて驚いた。


ところ変って、その日の学校。

おバカこと尾場寛一おばかんいちは、今日は警察署から派遣される

署員による交通安全教室が開催される事になっていた。

ところが派遣されて来たのがおバカの予想していた署員では無く

若い女性署員であった。

「何だ。あのパッパラパーじゃないんかよ?」

おバカは思わず幻滅した表情で言った。

「こらおバカッ!?」

教諭のひとりがおバカを咎める。

「は?おバカ?」

若い女性署員は思わず呆れた顔になった。

「すいません。コイツはもはや不治の病気級のクソたわけでな?

後でちゃんとよく言って聞かせますから何卒なにとぞ容赦ようしゃを。」

「ちっ。お姉さんが美人だからって格好つけるんじゃねーよ。

そのセリフはガキの頃からの持病である夜尿症を治してから言えや。

おまけに寝グソは漏らすしよ。」

その教諭の言葉に対しおバカは舐め切った言い方で対応した。

「んだとコノヤロー。

夜尿症はともかく誰が寝グソを漏らしとるだって?」

という事はアンタは今年41歳なのに夜尿症があるのは認めるんだな?

「お前、追っかけ漏れでズボンの内股が濡れてんじゃないのか?

心なしかアンタの内股から、おしっこが臭うぞ?」

「いちいち癇に障る事ばかり抜かしやがって。

門摩かどま(ゆうじのこと)だったら、絶対こんな事言わんのに。」

この教諭はみんなの前で恥をかかされた事に対し愚痴をこぼす。

「先生、話が進みません!それに尾場くんもいい加減にして!」

女子のひとりが言う。

「ところで貴方、尾場くんって言ったわね?

そのパッパラパーってウチの署員の誰の事なの?」

女性署員がおバカに問う。

「二ノ宮のヤツの事だよ。」

「ああ、あの我が署の問題児の?」

この女性署員も二ノ宮と聞いてすぐ判った。

それというのも二ノ宮忠行という男は署内勤務の巡査にありながら

署内では、みんなが手を焼く程の困ったヤツである。

何故なら酒好きで女にだらしないのはまだ普通な方で

彼女が署に配属のなった月に拳銃を紛失して結構キツイ処分を受けており

酷ければ借金は結構な金額だし、おまけに暴力団関係者と交際があり

捜査情報を度々、漏洩させ警察による暴力団の摘発を

難しくさせているし、周辺住民に対しても気に入らない事があると

すぐ食って掛かったり、女子学生のスカート内盗撮を試みて

それが上手く行くとそれをネットに上げたりと奇行癖の数々も酷いという。

「うわー、警察にもおバカみたいなヤツって居るもんなんだな?」

男子生徒のひとりが言った。

「アイツ、今日この学校で安全教室する予定だったんだろ?何で来ねーんだ?」

おバカはその女性署員に質問する。

「実は、二ノ宮巡査はこの前から行方不明なのよ。

ホント、あの人には困ったものだわ。」

するとおバカは懐からスマホを取り出して耳に当てる。

「お姉さん。この近くの川でバラバラになった人間の遺体が見つかったってよ?

もしかしてそれが実はお姉さんの探していたヤツだったりしてw」

「ちょッ!やだ止めてよね。幾らアレが碌でもないからって。」

「ほら、これでもまだ信じられないかい?」

おバカは女性署員に対しネットニュースで

バラバラ死体が発見されたという画面を見せる。

「・・・・・・。」

女性署員の表情が曇ってきていると警察署から女性署員に連絡が入る。

それによるとその川で見つかったバラバラ死体がそのおバカが言ってた

二ノ宮巡査と判明したため、学校で行っている安全教室を

切り上げて大至急、戻れとの指示であった。

「やれやれ。処置なしだな、今の日本の警察はよ?」

慌てて署に戻って行くのを見ておバカは呟く様に言う。

胴体が見つかってその数日後には頭部が見つかり、

その翌日には両腕と両脚が見つかった。

見つかった頭部や最初に見つかった胴体のDNAを解析した所、

やはり行方不明であった二ノ宮忠行巡査のモノと判明した。

その後警察は、二ノ宮の妻を調べ本人を事情聴取した所、

犯行を認めたため逮捕した。やがてその妻の母親も

遺体損壊と遺棄に関わったとして逮捕となった。

だが被害者の二ノ宮があまりにも警察署員にあるまじき言動や

振る舞いが目に余り、この街の住民から嫌われていたため

減刑嘆願の署名がこの街だけでも人口の9割以上に及び、

これに隣接している市町村も加えると、あまりにも無視できない域に

達しておりそこへ来て警察署も二ノ宮の警察署員にあるまじき態度によって

警察の沽券こけんに関わる懸念を問題としていたためか

珍しく二ノ宮の妻と母親に対する減刑を支持した。

その結果、裁判で巡査の妻に対し殺人罪としては非常に軽い

懲役10年未満の実刑とし、母親も1年余りの実刑にしたものの

このとき母親は身体を壊しており懲役刑に耐えられない為、

逃走の恐れは無いとし刑務所内の医療施設に入院させた。

そして刑務所も温情で妻の母親の死期を看取らせてあげたという。


犯人の逮捕して数日経ったある日の夕方。

女性署員が学校帰りのおバカを訪ねた。

「尾場くん。」

「おバカでいいよ。どうせオレも一皮剥けば

あの二ノ宮とさして変わりは無いかも知れないしな。」

女性署員もおバカの事を署が調べた所、

折角、この世に生まれたにも拘らず父親が自らの職業である

県の代議士としての保身や面子と腹違いの兄弟たちの利益を重視して

形の上では秘密裏に認知したものの家族の一員として

一緒に暮らそうとはしなかったばかりか母親も男から金を得るために

半ば邪魔なのか母子共に暮した経験が乏しかったという。

その為かおバカは通い婚のように父親と母親の家をそれぞれ訪れ

交渉して譲歩を得るという生活していたという。

その結果、下手なビジネスマンや外交官よりも巧みな駆け引きが発達した。

女性署員は、今この職業に就けれるだけ自分の生い立ちが

如何にマシであるかというのを思い知らされた気持ちになった。

彼女としては、いつか将来、自分と目の前に居るおバカとは

捜査員と被疑者の関係には願わくばならない様に、

彼にはどんなに人生が上手く行かなくなったとしても

くれぐれも精神的に病んで人の道を踏み外すような事には

ならないで欲しいと思うしか無かった。

そんな彼女の思いを他所に日は西に傾いて沈みかけ、

空も辺りもオレンジ色に染まろうとしていた。

「さて、そろそろ行くかい。」

おバカが歩き出そうとしている。

「何処に行くの?」

「何処へって、今晩のメシのための材料と生活品を買いにだよ。

まさかこのオレがソープかキャバクラにでも行くとでも思ってたの?

お姉さん、アンタ面白いな?そういうの嫌いじゃないぞ。」

「な!?ちょっと大人をからかうんじゃありませんッ!!」

おバカの飄々ひょうひょうとした軽口かるくちに、

女性署員は思わず赤面して興奮気味に怒鳴った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る