箱の中より愛をこめて(元ネタ:ボーイ・イン・ザ・ボックスより)

ゆうじは倉庫内で仕分けしていた。

そもそも学業が本文の一介の中学生が何で、

学校から委託されている業者の倉庫を仕分けする事になっとるのか?

それは数日前の事だ。彼は、その日もその日とて

討論の時間において意見を述べたのだが、それが普段から

ゆうじを何かにつけて嫌う担任や同級生の一部にとって

殊更、癇に障るのかこういう時になって

ここぞとばかりに、この場に何の関係も無い事まで持ち出され

散々糾弾されまくった挙句、その場の空気を悪くさせた事に対する

懲罰として学校から委託されている業者の倉庫内の仕分けを手伝いを

させる事によって分際を弁えさせるというのを知らしめようという

やり方であった。無論、この日の出席は当然

無かった事にするという理不尽のおまけ付きだ。

この倉庫内の仕分けは成人男性でさえ、身体能力に自信が無く

力仕事の苦手な者にとって強制労働と何ら変らない。ましてや

中学に上がって日の浅い子供にとっては想像を絶する重労働だ。

当然ゆうじとて人の子。ましてや思春期の少年の端くれだ。

こんな謂れの無い仕打ちをされて腹が立たぬ筈も無い。

後日、文句のひとつでも言ってやりたいと思ってた所

次の悲鳴に近い叫びで呼ばれた。

「ゆうじッ!?ちょっと警察に電話してくれッ!

死体が、人の子供の死体が段ボールの中に入っているッ!?」

声の持ち主はゆうじと同様、学校から離れた場所にある

学校からの委託業者の倉庫仕分けを命じられた他の学級の男子だ。

ただ、コイツの場合は学校抜け出して飲食店での飲食したからである。

しかも何でそれを改めたのかという問いに、

学校の給食がイギリスの料理並に酷すぎるからですと、

大見得を切った口調で言って学校側を余計に激怒させたというから

それを聞いたゆうじは思わず絶句した。

その男から段ボールに入った死体を見つけたと知らされた

ゆうじは懐からスマホを取り出し言われた言葉のとおり

警察に連絡する。それからしばらくして警察が来て実況検分する。


警察の調べによると、この大きな段ボール箱に入っていた状態で

見つかったのは年齢がおよそ7歳から8歳の女児という。

しかも全裸である上に、見るからに栄養不良で身体のあちこちに

痣や傷が目立っているばかりか、性的暴行も受けていたのか

下半身から大人のモノらしき精子と思われる白い体液が見つかった。

あまつさえ、頭髪は刈り込まれ坊主頭にされているという。

それを聞かされたゆうじと一緒の少年も、顔色を失って愕然とした。

やがて学校の職員がやって来た。

ゆうじらは自分らの事を心配してくれたのかと思ってたがそれは甘かった。

心配どころか酷く叱責を受ける憂き目に遭った。

元々懲罰のために倉庫内仕分けさせたのに、死体を見つけて警察沙汰に

したのが気に入らないかの様な言い草に終始した。

どうやら学校の先生としては、倉庫内仕分けという重労働の苦労を通して

他者に合わせようとせず徒に我を通し秩序を乱すことの愚かさを思い知らせ

一般社会で将来生きて行くためには、自分を抑え込む一方で

常に他人の価値観に合わせる事こそが大事だと理解させようとしたのに、

倉庫内で女児の遺体を発見して警察沙汰にし、学校側の下した

懲罰を無意味にしようとしたゆうじら二人の所業が、

学校側にとって頑迷固陋にしか映らなかったのだ。

(それじゃ、どうしろと言うんだ!倉庫内で死体が見つかっても

何も見なかった事にすればアンタの中ではそれで済まされるのか!?)

そう心の中でゆうじが怒りに震えながらも黙って聞いていると

相方の方が口を開いた。

「そうは言うけど、警察に黙ってたら余計、事態が悪化するんですけどね!?」

それを言うと、ただでさえ厳格で短気な頭の禿げてる教諭は

「世の中の事も碌に判りもせんガキの分際で、いつからそんなに偉くなった!?」

などと殊更甲高い口調で罵るばかりだ。

とうとう警察も見かねて、この教諭を説諭しこれ以上

中学校生徒に謂れの無い罵声を続けるのなら、

事件そのものの隠避を図ったと見做すと恫喝に等しい叱責を加えた。

「けっ!冤罪事件と未解決事件ばかり増やす税金泥棒めが!」

その言葉を逃さなかった警部はその教諭の手を掴んで手錠をかけた。

「な、何をしやがるッ!?」

「名誉毀損の現行犯だ。それと未成年者を学業と何の関係も無い

強制労働に従事させた児童福祉法違反の現行犯でも逮捕する。」

「警部さん・・・。」

ゆうじは思わず声を出した。

「ああ。キミたちは早く学校に戻りなさい。

学校へは警察から言って置くよ?」

それを聞いたゆうじら二人は学校へ戻る。

背後から教諭は何やら喚き散らしていたが、

やがてパトカーの中へ押し込められ、やがて警察署へと向かった。

この件をメディアも地域も取り上げ、やがて生徒に対する

厳格主義を通していた校長と教頭、そして職員は責任を取って

辞任したり左遷されたりした。これによりこれまでの様な

生徒に対する圧制的な方針は見直され、今まで刑務所学校という

あだ名とされた学校は、その不名誉を返上する事になった。

ただ、残念なのは段ボール箱から見つかった女児は

最後まで身元の特定は叶わず、その後の捜査の進展も進まず

やがて、ゆうじが成人を迎える時期には未解決事件のひとつとして

その名を連ねる事になってしまわれたという。

ゆうじとしては、あの小さい女の子の無念が一日も早く晴れるのを

ただもう切望せずには居られないばかりだ。

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