名も無き美女の遺体(元ネタ:プリンセス・ドウ殺人事件より)

早朝の霊園。

そこの管理人と思われる男性が

今日もこの墓地の定期の見回りを始める。

仮にこの男性の苗字を取ってIさんとする。

「ふぁ~。朝も早くからここの見回りをしないとイカンとはなぁ?」

この若い男性Iさんは、つい最近までニートであったのか朝は苦手みたいな様だ。

この男がこんな仕事を不本意ながら引き受けざるを得なかったのは、

元来厳格なのか、彼に対し二言目には

「働かないで食べるご飯は美味しいのか!?」だの

「お前如き怠け者など本来ならそこら辺の水たまりの水を

浴びるのだけで十分だ!」だの

「お前みたいな自堕落が暖かい布団で良い夢見るとは

世も末だな」とか言った具合の嫌味や皮肉を

毎日言われ続けて流石にストレスになったのか、

自身であれこれ仕事先を探したが元はと言えば

その厳格な父親のやり方が原因でニートになったのだが

あの父親は常に自分以外の者を過小評価し、

自分以外の者に殊更、辛く当たる事が本人の為になると

思い込む程の独善的な傲慢さと頑迷さがあるせいで

自身は友達も居なければ近所や地域の人々からも鼻つまみ者に

なっているのにそれを顧みないのだ。当の父親自身は

世の中の方が一方的に悪く自分には何の落ち度は何も無いと

本気で思っているのだ。要するに自分自身が変わらなければ

周りは何も変わらないという考えの出来ない人なのだ。

それを我が子である彼に対し身勝手な責任転嫁をされたのだから

彼としては非常に堪ったものでは無い。


それであれこれ仕事先を探した挙句に、これでダメであったら

父親に対しこれが世の現実であるという事を受け入れて貰おうと

行き着いた先の霊園の事務所に行って面接したのだ。

すると折しも前任の男は親からこの仕事を引き継いだものの

元来、働くことに向いてない気性と能力のためか

もう半ば仕事を辞めてそこそこ蓄えたお金で

デイトレードして暮らしたいと思っていたのだ。

それまで事務所にスマホやノートパソコンなどを

持ち込んではデイトレードしてそこそこ稼いでは

それがバレて親に怒られてばかりいた。

それが面接に自分より若い男が来ると聞き及ぶと

以前から用意して置いた霊園の管理マニュアルを

面接に来たこの男に手渡し引き継ぎを頼むと

自身はさっさと辞職して、その足で退職金を貰いに行くのも兼ねて

霊園本部に赴いた。

とうとう残されたIさんは、ため息をつきながらも身回りを始める。

それから見回りを始めてから、何も不審な点が見受けられないと判ると

事務所に戻ろうと足を向け始めていた。

すると、彼の視線は霊園の敷地から少し外れた、小川の河川敷で

うつ伏せになっている若い女性らしき者を見つけた。

(はて?いくら暖かくなる時期とはいえ、こんな所で若い女の子が

うつ伏せした状態で野宿して寝ているなんて寒くは無いのだろうか?)

そう思ったIさんは近づいて見る。

「あの、もしもし?こんな所で寝ていると風邪を引きますよ?」

そう思って揺さぶろうと思ったとき、その若い女性の状態が

何かおかしいと気づいた。何故なら、寝ているにしては

顔があまりにも酷い状態だったからだ。何か胸騒ぎを覚えた

彼は早速、懐からスマホを取り出し警察に電話した。


それから暫くして警察が来ると、そのうつ伏せ状態の若い女性を調べた。

警察が調べた所によるとその女性は身長が158センチから163センチで

そこから推測される体重は43キロから49キロとされる。

頭髪の色は黒で長さが肩までとされるセミロングヘアだ。

それに死亡しているという。

しかも死亡推定時刻が短くても3日は堅いとされる。

その死亡原因は顔面があまりにも判別が困難であると思っていい程の

殴打によるとされている。

遺体の死亡時の服装とはモスグリーンの厚手長袖の、Oプルオーバーで

下は赤のチェック柄の膝上3センチのプリーツスカート、

両足は紺色のハイソックスを穿き靴はブラウンのローファーを履いていた。

身体に手術痕やタトゥーなどは無く下着は身に着けてなかったが

性的暴行の形跡は無かった。

しかし、被害者の手や腕には防御創と見られる傷痕があり、

生前に犯人に対して激しく抵抗した事が推測された。警察としては

これまで何件かの同齢の少女の行方不明事件と照合が行われたものの

結局、被害者の身元は捜査によっても判明しなかった。

その結果、未解決事件として多くの人々にとっても暫く話題になった。


ただ、この事件で第一発見者であるが故に警察に被疑者扱いされ

締め上げられた事もある等割を食ったIさんは、一時期、狭い街の人々から

容疑者であるかの様な噂話をされたため、それが原因で精神を病んだのか

この事件の翌年の新年度に入ると霊園の管理人を辞職してしまった。

無論、彼の父親は激怒したが彼としては、もうこの件を理由に取り合わなくなった。

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