送電塔が倒れたらどうしよう?(元ネタ:坂出送電塔倒壊事件より)

とある日の早朝の事だった。

標高が海抜100m程の山の南側斜面に高さが70m以上した

ひとつの送電塔があった。如何にも金属製の骨組みを

組み合わせたっていう感じの外見をしている。

他の土地にある発電所から変電所に送るための

幾つか作られている同じ様な造りの送電塔だ。

それが突如、根元から金属の棒が力ずくで捻じ曲げられた様な

不快な音を立てて今にも倒れようとしている。

よくよく見てみると根元にある台座から送電塔の骨組みを留めている

部分の内、倒れようとしている方の固定していたはずの

ボルトが誰がどんな方法でやったのか抜き取られていた。

その為、まだ無事な方の骨組みで何とか体制を維持している

状態にあった為にまだ無事な方の金属製の骨組みが

半ば金属疲労状態にあり、それが送電塔の自重と

支えている電線の重さによって最早、限界であるみたいだ。

その限界がピークに達し、支えていた台座近くの

骨組みが時間をかけて歪み出し折れ曲がり始めたのである。

そして折れ曲がり始めた送電塔は不快な金属音とともに

幾つかの繋がってた高圧電線を引き千切りながら

瞬く間に住宅地めがけて一気に倒れ地面に叩きつけられたのだ。


送電塔が倒れ出した頃。

ゆうじはいつもなら早めに起き上がるのだったが、

その日は休日である上に前日の疲れも手伝ってか気楽そうに

眠りこけている。するとそこへ凄まじい轟音が鳴り響いた。

「な、何だ何だ!?」

ゆうじは思わず飛び起きた。

大型車が民家に衝突したのか?それとも爆発事故か?

窓を思わず開けた。そこで見たのは

昨日まで住宅地から見上げるように小高い山に立っていた送電線の鉄塔だ。

本来なら自分らの居る住宅地に倒れるはずの

無かったモノがそこに倒れているのだ。おまけに高圧線は心なしか

しきりに路面に触れてスパークしている。他の民家の住民たちが次々と

自宅の扉を開けて飛び出すなり、この状況に驚く。

だが次の瞬間、住民に対する悲劇が襲った。

それというのも彼らの立っている路面は昨夜から未明のかけて

降り続けた大雨で濡れている上に彼らの多くが

裸足や電気を通しやすい材質で出来たサンダル履きであったからだ。

当然、凄まじい電流によって路面に飛び出した彼らは

次々と悲鳴を上げて倒れた。これを見たゆうじは戦々恐々とした。

もし、あそこで路面に飛び出したらどうなっていただろうか?

当然、自宅の電気はまったくつかないばかりか

恐らく他の世帯も電気が使えない状態だろう。

それをスマホの内臓バッテリーを頼りにニュースをワンセグで見る。

やはりニュース速報ではゆうじの住んでいる地域において

送電塔が倒壊した事を報せる番組を流し、

現地リポーターが倒れている送電塔を背にテレビ画面に映っている。

ちなみにこのリポーターは過去に女児監禁事件を起した

元福祉施設職員でニートだったヤツと顔が瓜二つな為か

あまり人気が無いみたいだ。

後から続々と伝わる情報によると、あの送電塔の台座を

固定していたボルトの多くが抜き取られ、斜面に捨てられたのを

警察が確認したという。しかもまるで何かの力学を知った上での

犯行であるかの様に。それからこの街の電力が回復するのに要したのは、

ほぼ二日間の様だ。折角の連休の多くをこの事件の顛末に

巻き込まれたのに要したので、ゆうじとしては、あまり楽しくは無い。

それにしても犯人は何の考えがあって、ああいう事をしたのだろうか?

それから警察は幾度と無く捜査員を四方八方に差し向け

徹底的に調べ上げたのだが、結局は犯人の影すらも

捕捉する事は叶わず死者を多く出したにも関わらず

あろう事か未解決事件として半ば迷宮入りした。

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