絵画盗難伝説(元ネタ:マルセル盗難事件より)

時は、今より9年以上も前に遡る。

当時、関西にある近代美術館でフランスの美術館から貸し出されていた

多くの絵画をはじめ数多くの美術品の展覧会が開催されていた。

そしてその最終日である年の暮れ近くが迫ったある日、

その美術館で騒ぎが起った。ひとりの客が近くの人に

警備員と美術館の責任者を呼んで欲しいと言い出したからだ。

騒ぎを聞いて警備員はじめ美術館のスタッフの何人かが駆けつけると

「お客さん、どうしました?」

スタッフのひとりが尋ねると、その客が自分の目の前の壁を指した。

「き、昨日まであった筈の絵が無いんだ!?

俺もこの絵は大好きだったのに。」

確かにこの男も美術品を眺めるのがとても好きなのか

いつも知人や友人に持論を展開する程なくらいだ。

思わず、そのスタッフが指を示した壁を向くと

そこには前日にはあった筈の一点の絵画が無くなっていたからだ。

そしてその出来事は警察が呼ばれ盗難事件としてマスコミも騒いだ。

だが、その盗難された絵画を保護する額縁が見つかっただけで

その後の捜査は難航し、やがてその後を知る者も現れない為

最終的に公訴時効が成立し迷宮入りと化して行った。


そして時間の針は現在に戻る。

その日ゆうじは学校内の午後の清掃時間において校長室を

請け負う事になった。今は校長が代わったといっても

校長室へ行くのは、あまりいい気がしないのである。

実は前の校長はゆうじをはじめ多くの生徒たちからは

独裁者とあだ名で呼ばれるくらい生徒たちに専制支配を強いてたからだ。

少しでも手を抜くと判ると、すぐ問答無用で暴行に及ぶという

教育者の端くれにあるまじき蛮行が多く、おまけに奇行癖の持ち主でもある。

要するにこの前校長は、校長になっていなかったら

街のみんなから大いに嫌われまくった挙句、刑事事件を起して

裁判所で実刑判決を受け刑務所に収監されてもおかしくないヤツである。

ハッキリ言って前の校長は忌々しい存在でしかない。

それがこの前の一件を機に、引導を渡され遂に

辞任へ追い込まれたのである。(箱の中より愛をこめてを参照)

その後の風聞によると相変わらず、自分が辞任に追い込まれたのを

ゆうじのせいにし、ゆうじによる謀略だと騒ぎ立てて周囲から

度々、その事を注意されても懲りないというのを聞くにつけ

ゆうじとしては、ただもう呆れるばかりだ。

早くやらないといけないなんて思っていると、思わず壁に

この学校に似つかわしく無さそうな一点の絵画を見つける。

(この絵画・・・昔、何処かで見た事があるな?)

そう思うとゆうじは思わずスマホを取り出しその絵画を撮影した。


そして学校からの帰りに警察署に行く。

そこでスマホの撮っていた画像を受付の警察署員に示した。

すると横に居たひとりが

「そ、その写真にある絵・・・何か知ってるぞ!?」

などと言い出した。

「この絵を知っているんですか?」

ゆうじは思わず応答した。

「これは関西の所轄の知り合いが昔、担当していた盗難事件での

行方知れずとなってた高級美術展で壁に掛けられていた絵画だぞ?

確か、フランスの国立美術館から貸し出されていた絵だ。」

それを聞いてゆうじは思わず驚愕した。

「キミ、それを何処にあったのを知った!?」

男性署員はゆうじに問う。

「は、はあ。実は今日、学校の午後の掃除で校長先生の部屋を

担当したのですが、あの絵は前の校長先生が知り合いから

最近になって手に入れたモノだったそうです。」

ゆうじは思わず硬直した心理状況でそう答えざるを得なかった。


その翌日、学校へ警察がやって来て校長室にあった

一枚の絵画を慎重かつ丁寧に持ち出した。

そして警察は前の校長の所へ行って当人を締め上げた。

だが、当時の犯人とは何の接点も無い様だ。

結局この前の校長は、盗品だったと知らなかったとはいえ

出所不明のモノを譲渡された事は無罪になる訳は無いモノで

やがて起訴されたというのを後日になってゆうじはそれを知らされた。

ゆうじは前の校長に対し、いい気味だと思う一方で

自分も安易にモノのやりとりをしてばかりいると、いつかは

ああいう風になっても仕方ないと思う様に考えた。

そしてその絵画は警察が思ってたとおり盗難品だった。

やがて絵画は外務省を通じてフランスの国立美術館に返還される事になった。

ただ、犯行や動機はおろか犯人像そのものすら不明なままである。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る