線路は続くよ事故までも(元ネタ:JR福知山線脱線事故より)

とある春の日の朝の事であった。

ゆうじは電車内の7人掛けシートに座っていた。

この日の電車は。まるで遅れを無理してでも

取り戻そうとするかの様に、やけに速度が上がりだった。

そのせいか、始発駅から乗り始めてこの方オーバーランや緊急停止があった。

だが、そんなの他の乗客と同様しがない一介の乗客である

ゆうじには解らないし探ろうという余地など無い。

(まったく、何をやっとるんだか。)

最近、鉄道会社も運転士の技量はじめ職員の

質が全体的に落ちて来てるのだろう?

改札口においても不親切で誠意を欠いた対応していたし。

そう思いながらも、暖かい春の陽気が車内を照らすと

ゆうじは再び笑顔に戻る。

どうせ、あと一時間足らずで降りる駅までの

ほんのひと時だ。今年のあまりにも寒すぎた分

快適に過ごさせて貰おう。他にもこの車内には

乗客と思われる人間はあまり無さそうだ。

ほとんどの者は皆が皆、先頭に近い車両に

移っており殿に近い車両はどうもあまり人気が無いらしい。

そう思うと心なしか不意に眠気が来る。

ここで寝ては乗り過ごしてしまう。そうは思ってても

眠気が迫るのをどうにかは出来ない。


するとそこへ女子高生と思わしき制服姿の女の子一人と

小さい子供が一人、やって来た。

後者の方は見た所、公共の場で所構わずはしゃぎ回る

タイプでは無さそうだ。もう一人の方は言えば

ストレートのセミロングヘアをした紺色のブレザーを着て

白のシャツの胸元を真紅のリボンタイで留め、

下は赤を基調としたチェック柄の短いスカートに

紺色のハイソックスと茶色いローファーという姿だ。

見たところ、可愛い系のちょっぴり美人といった所か?

小さい女の子の方は、車内の通路を挟んで

こちらとは斜め向かいのシートに座り出した様だ。

おや?制服姿の方の女の子は何処へ行ったのだろうか?

ざっと見回したが何処にも居なさそうだ。

まあ、恐らくこの車内の隅っこにでも行ったのだろう?

どうせ、みすぼらしく貧乏くさい自分なんか

淫乱な売春婦の興味の対象にすら成り得ないだろう。

ゆうじは内心、不貞腐れるような感じで思った。

そう感じながら、ゆうじに対し眠気が来るのか再びウトウトと眠り始まる。

それからおよそ大分経ってた辺りで次の瞬間、

ゆうじは股間に殴打を受け名状し難い激痛に受け思わず股間を抑えた。

あまりの痛みに股間を抑えながら目を覚まし立ち上がると、

そこにブレザー姿の女の子が立ち尽くしていた。

どうやら、ゆうじの股間を蹴りつけたのはこの女の子だ。

他を見回しても小さい女の子しかこの車内には居ない。

その小さい女の子は、ただ唖然とした表情で

こちらで何が起こっていたのかを見ているだけだ。


「て、てめえ何しやがる!?」

ゆうじは思わず怒りに満ちた表情をブレザーの女の子に向ける。

それは当然だろう。こちらは別に女の子に何かした訳じゃないのに。

しかもただ電車内のシートで座って眠っていただけの理由で

いきなり股間を問答無用で蹴られたのだから。

普通、他人に対し心ならずも無礼をしてしまったら謝罪するのは

人として同然だろうし、そもそも一般常識を弁えているべき立場に

あろう者が座席に座っている者に対し暴行に及ぶなど以ての外である。

普通ならここは素直に謝罪するだろう。

だが、相手の女はそんな常識などあろう筈は無い。

それどころか、ゆうじに対しアッカンベーした上に

中指を立てて小馬鹿にして見せる。

それに対しゆうじは怒りがヒートアップする。

「お兄ちゃん、喧嘩を止めて!お姉ちゃんも早く謝ってッ!?」

一触即発になりかねないのを察して、小さい女の子は

両者を宥めにかかった。これに関しゆうじとしては

矛を収めてやりたい。だが、心無い者による不法行為に対する

怒りの感情としては、そうし辛いものである。

目の前の女に対し怒りを、どの様にぶつけてやろうかと

思っていた瞬間、先頭車両がコンクリートに凄まじく

叩きつけられる音とともにこの車内も「ドッシャーン!」と

大きい衝撃で中に居る人間が斜め前方に目掛けて

放り出される力が加わった。それからしばらく経って

最初に気がついて見ると、ブレザー制服の女の子の

スカートの中が視界に入った。段々そこから思い出して行くと

どうやらゆうじは列車の衝突事故の際に於いて、

無意識にラグビーかアメフト選手のタックルの要領で

女の子の両足の太ももにしがみついたのだ。

その結果、その女の子は電車のドアのすぐ傍にある

銀色の金属製の手すりに頭をぶつけて頭部から血を出した

状態で動かなくなったのだ。しかも死後硬直が始まってるのか

太ももから温かさが感じられなくなって行く。

ゆうじは思わずその女の子から離れる。

そういえばもう一人の小さい女の子は?

窓ガラスは大きく割れ、その割れたガラスには血が付着している。

まさか・・・?不吉な予感がして起き上がろうとした所、

鉄道会社と警察と消防署の救助班がやって来た。

それによって、ゆうじは救助された。そして病院へ連れて行かれ

精密検査を受けた所、特に問題は無かった。

その後、警察にありのままの事を喋らされた。

だがそれがゆうじにとって、とんでもない事になった。

メディアが紙面に、

「世紀の明暗!男の子の金玉蹴った女の子が死に、

金玉蹴られた男の子が助かった!」

な感じで面白おかしく書きたてた為に、ゆうじは周囲から

「金玉蹴られて命を救われた痛いヤツ」と

しばらく言われ続けた。無論、あの小さい女の子は

事故の際に車外へ放り出されて亡くなられた。

ゆうじは一日も早くあの小さい女の子の無念が晴れ

救われて欲しいと思いつつ鉄道会社からお見舞金を受け取った

それ以降は、もう自分の事などそっとして欲しいと思った。

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