23話 誤解と憧れ

 王からの意外な提案に眉をひそめるクールであった。しかし、


 ノゼ様……!? よろしいのですか?


 ノゼが軽く頷いているのを見て、すぐに返答するクールであった。

「はい。大変光栄なことです。是非参加させて頂きたい所存であります」


「おお、そうか! いやー良かった。お主がいれば間違いなくこの団体も名があがるぞ!」


 王は嬉しそうにクールに近づき、がちっと握手を交わした。


「団体の名は『国営候補団』だ!」


 まるで興味がない……


 クールは自分の心の叫びをひしひしと感じていた。

 しかし任務のため、そしてノゼのためにも自分の役割を必死で果たそうとするのであった。


「はい。では後日改めて国営候補団の皆様にご挨拶に伺います」

 クールは心の中に潜むモヤモヤを抑えつけ、深々とお辞儀をした。


「それは団員も喜ぶぞ! お主なら本当に勇者になれるかもしれんな! はっはっは!」


 ゾクッ……


 その瞬間、クールはその場の空気が一瞬凍りつき時間が静止したように感じた。


 ノゼ様の……殺気?


 ほんの一瞬の出来事。

 そのため気づいたのはクール以外にいなかった。


 ノゼ様……? あなた様は……!

 クールは懸命にノゼの心情を理解しようとしてた。


 ノゼ様の勇者に対する殺意! 分かっております! 私目は十分に分かっております! 勇者という単語を聞くのすら嫌でありましょう! どれほど憎んでいることか……! この王にはいずれ罰を与えましょう!


 そう言ってクールは軽くにこっと笑い、ノゼにアイコンタクトを送る。


「あ?」

 そのアイコンタクトを見たノゼの額には青筋がピシッと入っていた。


 なぜクールに勇者候補としての白羽の矢が立っているのだ! 勇者はお前がなるんじゃないぞ! この私がなるのだ! ……笑ってられるのも今のうちだ!


 そしてノゼは引きつった笑顔をクールに返した。

 もう余計なことはするな

 クールに対する返答であった。


 しかし、クールは何かを理解したかのように頷き、再び王の方を見る。


「勿体ないお言葉でございます! 今はまだ無理かも分かりませぬが、いずれは立派な勇者となれるよう精進して参る所存でございます!」


 そう言ってクールは「ふふっ」と笑った。


  ノゼ様、あなた様のお考え、理解致しました! 魔族である私が勇者となることで、その脅威を己の傘下に入れる計画ですね! 私目、ノゼ様のためなら鬼にも勇者にもなれます!


「ぶはっ!」

 全てを察したベアは我慢できずに吹き出す。


 ノゼはというと、

「はは、クールさんよ……無事に勇者になれるといいな……。道中、背後に気をつけることだ」

 意味深な言葉を残し、震える握り拳を抑えつけ、クールに不気味な笑顔を送り続けるのであった。






 ところ変わって、ここは宿屋。王の謁見を終えた翌日、一行は城下町の宿屋に宿泊していた。


「あ、ノゼ!」

 朝食を終えたベアが宿屋の廊下でノゼに話しかける。


「今日さ、ノゼの活動について行っても良いか?」


 王への謁見を終えたベアはやることがなく暇を持て余していた。


 私もしっかり活動しなきゃな。


 時間潰しと同時に、ノゼのお世話係として随行している自分の役割を思い出し、街でのノゼの活動を見学しようと決めたベアであった。



「構わんが……つまらないと思うぞ? ごく普通の活動だからな」


「え? そうなのか?」

 ベアが意外そうな顔をする。


「ああ。『武器をこよなく愛する会』の主たる活動は、啓蒙だ。武器に偏見を持っている人々に武器の素晴らしさ、そして武器の使い方を教えることだからな」


「ふーん。じゃああの時の路上販売は?」



「ああ、路上販売は時々だぞ。資金集めのためで、メインの活動じゃないからな」


「そっか……なーんだ」

 残念がるベア。

 というのも、ノゼ達の路上販売を見てから、いつでも販売員として働けるよう少し武器の勉強をしていたのだ。


「まあでもいいや! ノゼ達がどんな活動してたか気になるし! 今日ついていくよ!」


「そうか。では1時間後にここに来るんだ。ここで啓蒙活動をするぞ」


 ノゼはチラシをベアに手渡し部屋に帰っていった。


「ふむふむ、なになに……?『武器を持ったことがないそこのあなた! たった半日で武器を使えるようになります! 今日から新しい自分にレッツ・チェンジ!』……か」


 チラシを裏返して見ると、

「ほんとに使えるようになった!」「体重も落ちて体がスッキリ!」

などの参加者の声がずらずらと書いてあった。


「胡散臭い……」

 このチラシを作っているノゼを想像し、ベアは一人でしばらくニヤニヤするのであった。

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