22話 王の提案

「リ、リーダー!? 大丈夫ですか!?」


 武器をこよなく愛する会の仲間がノゼを心配する。


「お、ぉ、……あれ? お主、ベアか!?」

 ノゼはここでようやくベアに気づく。


「気づくのが遅い! 一体全体何をやってるか説明しろ! お前はここで本来の目的の勇……者……んん!」


 ベアの口が強制的に閉まった。


 契りの印か! しまった……

 ベアはノゼと結んだ契約を思い出すと同時に、ノゼの秘密を暴露しそうになったことを少し反省していた。


「ノゼ様、おはようございます」

 ベアがもごもご口を動かしている間、クールがノゼに挨拶をする。


「おお! クールか。ベアを連れて来てくれたのだな。ご苦労」


 クールはノゼにお辞儀をし、ベアを冷ややかな目で見つめる。

「娘よ。ノゼ様はこの街に到着後、その万能の観察眼を活かし、将来性があり、そして我々の旅に最も適した団体を見つけ下さった。それが『武器をこよなく愛する会』だったのだ! それを貴様は……。今すぐにノゼ様に謝罪するんだ!」


 ノゼは得意そうに「まあまあ! 良い良い」とクールをなだめる。そして会のメンバーもクールに続く。


「お嬢ちゃん。この街ではね、社会に貢献することが大変評価されるんだ。国王や住民から認められた団体は様々な特権が与えられるんだよ」


 ぞろぞろ……


 他の『武器をこよなく愛する会』のメンバーらしき者達もノゼに集まってくる。


「そうさ! そしてそういった団体から、勇者候補が生まれるのさ!」


「ノゼさんは、活動を休止していた私達の団体を資金面から援助してくれた上に、マネジメントまでやってくれたの!」


「この路面販売を通して武器の大切さを訴える活動もノゼさんの案なんだぜ!」


 そして数人のメンバーが声を揃え始める。

「我々の新メンバー、ノゼさんに感謝!」


「感謝!」


 クールは「うんうん」と頷き、ノゼは「いやー、あははは」と照れ臭そうにしている。



「ふぅーー……!」

 ベアは晴れ渡った青空を見て大きく深呼吸した。


「私この街嫌い」


 ベアの一言は空に消え、感極まったメンバー達にはまるで届かなかった。


 その後、メンバーによる活動紹介は1時間続いたという。






「お会いできて光栄でございます、ハンブルブレイブ王」

 クールが代表で挨拶をしノゼとベアが跪く。


 ここ、王の広間は魔王城の大広間に遜色しない広さであり、壁や高い天井には天使や草原をイメージした絵画や銅像が装飾されていた。


 ノゼ達は街の広場を後にし、竜族の襲撃事件を報告すべくハンブルブレイブの王へ謁見していた。


「遠い東の国より、遥々ご苦労であった。そして、竜族の退治、大義であった。民を代表して感謝する。早急に真価騎士団にも報告するとしよう」


「はい! 勿体ないお言葉であります!」


 クールは深々とお辞儀をした。ノゼは軽く会釈し、ベアもそれに続く。


「捕らえた竜族は中々口を割りそうにないが……、諸君らは今回事件について何か知っているか?」


「はい! 実は……」

 クールは旅の途中での出来事を簡潔に王に伝えた。


 王は「うむうむ」と相槌を打ちながら、特に驚いた様子は見られない。


「そうであったか。やはり各地で竜族が動き出しているのか……」


「他の地域でも竜族の襲撃が多発しているのですか!?」


クールは思わず声を荒げた。


「うむ。ここ数ヶ月の内に襲われた村や街が多数あるのじゃ……。勇者候補を派遣に向かわせたが、竜族の戦闘力も相まって被害は大きいものでな」


「そうでしたか……」


「時に、この竜族を見事討伐した者はお主であるな?」

 王はクールを見てニコッとしている。


 クールはノゼをチラッと見る。


「……うむ」

 ノゼは軽く頷いた。


「はい! 私があの者を捕えました」


「おお! やはりそうか! あの竜族を倒すとは大した者である! ……して、お主がこのチームのリーダーか!?」


「い、いえ、私は……ただの召使いで……!」


「いや、これは失礼な問いかけであったな! お主からはリーダーの資質と力が感じられる! お主であるに決まっておるな! 他の2名も鼻が高いであろうな。はっはっは」


「お、恐れ多くも王様……!私は、本当に……!」


「謙遜するな! はっはっ! そこの2名も修行の身であろう! このクールという男を見習い早く自立できるようになるのだぞ!」


「お、王様……!」


 まずいぞ……


 クールはノゼ達をチラッと見る。


「くっくっくっ」

ベアは笑い堪えるのに精一杯になり下を向き、そしてノゼは……

「はははー」

 軽く笑っていた。しかしその笑みは不気味な程引きつっている。


 このバカな王は……殺される!

 クールは胸の前で十字を切り目をつむった。


「王様の仰る通り、クールは我々のリーダーであり、誇りであります!」

 クールの不安を切り裂くように、ノゼが声高らかに返答した。


「!? ノゼ様……?」


「そうであろう! はっはっ! クールよ、いい部下を持ったな!」


クールは「はあ」としか言えなかった。


「ですので、今度、リーダーであるクールに戦闘の稽古をつけてもらおうかと思っております……!」

 ノゼが意気揚々と稽古の申し入れを提案する。


「ノゼ様!?」

 クールの口は大きく開き、その表情は驚愕に満ち溢れていた。


「いや、それは! ダメです! ノゼ様……!」

 クールが懸命に止めようとするが、王が遮るように賛成する。


「おお! それは良い! 是非そうして貰いなさい。……この街では年に一回勇者候補達による格闘大会が開催される。そこに出られるように、修行を積むといい」


「はい是非。勇者候補の猛者を倒せるように精進する次第であります。……まずはクールを手始めにぶっ潰……、いや、倒せるようになります」


「ぶはっ! はっはっは」

 ベアは我慢できなくなり、吹き出す。


「……」

 クールはというと、目の前をうつろうつろに眺め、「や、やられる……」とだけぼそっと呟いていた。



「さあ、冗談はさておき……」

 ハンブルブレイブ王との談笑が一通り終わった後、王はとあるお願いを申し出る。


「クールよ、お主の強さを見込み頼みたいことがあるのだ」


「は、何でしょうか」

 先程まで呆然と立ち尽くしていたクールがようやく動き出した。


「お主、この街で勇者候補団体には所属しておらぬでござろう」


「はい、何分最近到着した身でございますので……」


「それは良かった! お主程の屈強な男を他の団体が放っておくとは思えんからな! ……どうじゃ、私が支援する国立の勇者候補団体に入ってはくれぬか?」


「私がですか……?」

 王の提案に眉をひそめるクールであった。

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