第3章
21話 本領発揮
ピィピィ
小鳥のさえずりと部屋のカーテンから漏れている朝日が、ベアをゆっくり目覚めさせた。
ここはハンブルブレイブ、城下町の宿屋。
「うぅ、もう朝かよ……」
重たいまぶたをこすり、ベアは下着の上から旅人の服を着る。
昨日、橋を渡り終えたベアは足がパンパンに腫れ、歩行が困難であった。
それを呆れて見ていたクールは、ベアに先に宿屋で休むよう指示したのであった。
『あんな歩き方するからだろう!』
クールの言葉が耳に残っていたベアは、「うるさいなあ」と誰もいない部屋でぽつりと呟いた。
旅人の服に着替え終えたベアが一階に降りると、そこにはクールが出口に立っていた。
「娘! 遅いぞ! 朝日が昇り、すでに2時間が経過している!」
ベアは「はいはい」と返事をし宿屋の主人にお金を支払う。
「それで、今日は何をするんだ?」
ベアは何事もなかったかのように、けろッとしていた。
「王が今日帰還するらしくてな。城に向かい、竜族の件を説明しにいく」
「ずっと思ってたんだけど、私達王に会って平気なのか? 仮にも魔族側の者だろ……?」
魔族側か……
何のためらいもなく自分を魔族と呼ぶベアの適応力の高さに驚くクールであった。
「我々には、ノゼ様直々の魔法がかけられている。我々の素性は強力な魔力によって守られている……。名前がバレなければまず大丈夫だろう」
「そ、そうか。なら……いいか。それでノゼは何をやっているんだ?」
「ノゼ様はこの近くで情報収集をやられておられる。お前が目を覚ましたらこの宿屋前の広場で会うことになっているのだ。にも関わらずお前はいつまでも、すやすやと眠って……」
クールはそう言って宿屋を出る。
「あ、おい待ってよ!」
ベアが宿屋の扉を勢いよく開け、外に飛び出した。
「おー! ここがハンブルブレイブ!」
石畳のタイルが地面に敷き詰められ、赤い屋根が特徴の木造住宅が大広間を中心にいくつも建てられている。
路面には市場が開催されており、人々が買い物をしていた。
「昨日は夜で何も見えなかったけど、大きい街だなー!」
ベアの目が輝き、左右を行ったり来たりしている。すると、
ドカッ!
「あ、すみません!」
よそ見をしながら歩いていたベアは、路上で男性にぶつかった。
「おっと! 大丈夫ですかな。お嬢さん」
男性は4、50代であろうか、優しい声でベアを心配してくれた。
「ごめんなさい、この街は初めてで、少し興奮してて……」
「ははは、そうか! この街は大きいだろう! 何たって勇者が集まる街でな! 自慢の街だよ!」
ベアは「へへ、そうですね!」と返事をし辺りを見回す。
このお嬢ちゃん旅人さんかな……?勇者にも興味がありそうだな
街に興味津々のベアを見た男性は再び話しかける。
「勇者と言えば、お嬢さん、勇者だけが持つ専用武器を知っているかい?」
「え? エクスカリバーのこと?」
「その通り! 聖剣 エクスカリバー! 勇者だけが持つことを許された伝説の武器。洗練されたフォルムであり、あの魔王の角も容易に貫く威力! 素敵だよねー」
ベアは「はあ」と不思議そうき相槌を打つ。
「そこで! そのエクスカリバーの加護を受けたとされる、ミニ剣チョイカリバー! 今なら銀貨40枚だよ!」
なんだ路面商売かよ……
ベアは「あーあっ」と心で呟き、「大丈夫です」と言って立ち去ろうとする。
「待ちなされ! お嬢さん! 今ならあの修練の短刀 アルガデリアの祝福を受けたミニ短刀も付いてるよ!」
ベアはスタスタと歩き無視をキメる。
「分かった、お嬢さん! お嬢さんの勝ちだよ! 覇王の弓のレプリカも付けるから! 滅多にお目にかかれない武器だろうぉ?」
「ここ最近で何回か本物を見たので……結構です」
「はっはっは、冗談を〜」
男は大きく笑った。そして広場で押し売りをしている別の男を見て、こちらに呼びかける。
「おーい、リーダー! ここに目撃者らしいお嬢さんがいますよ!」
リーダー? まだ変なのがいるのか……
ベアが不思議そうに見ると、フードを被った男がつかつかと歩いてくる。
男は下を向いておりお互いに顔を認識することはできない。
「お嬢さん! 伝説の武器を見たことがあるのか!?」
「は、はぁ。まあ……」
「それは素晴らしいぞ!! 一体どの武器を見たんだ!? 感想を教えてくれ! 是非!」
ベアは面倒くさそうに「全部」と答え、その場を去ろうとするが、男は執拗に迫ってくる。
「ははー。全部とは恐れ入ったぞ! 特にエクスカリバーは芸術品だったろう!? あれこそ武器の到達すべき頂点! 私も一度でいいから振るってみたくてな!」
「え……? 使いたいのか?」
どこがで聞いたことのあるセリフにベアが反応する。
「ああ、勿論だ! あの武器は男の夢だろう!? でも生憎、訳あって触ることすらできなくてな」
「……そうですか」
ベアが首を傾げ、男の顔を覗こうとする。
「やはりお主とは話が合いそうだ! どうだ!? もっと武器について熱く語らないか!? 実は我々はこういう者でな……」
男はガサガサとチラシを取り出し、ベアに手渡した。
「……武器をこよなく愛する会……?」
「そう! 我々は武器を愛し、愛されている者の集まりだ! 武器と聞くと危険で野蛮なイメージを持ってしまいがちだが、それは誤解である! 武器とは体の一部であり芸術品なのだ! そういった誤解を解くため、我々は日夜活動しているのだ!」
まさかな……
どこかで聞いたことのある話、そして聞き覚えのある声。
ベアは恐る恐る尋ねる。
「あ、あの代表者は、あなたですか……?」
すると男性は頭を上げ、手を腰に当て自信満々に返答する。
「そう! 私が『武器をこよなく愛する会』のリーダー。……ノゼだ!!」
「ふぅぅーー……」
ベアは大きく息を吸い手を振りかぶった。
「この馬鹿たれがーー! お前は一体何やってんだー!」
ベアの張り手が「ビターン!」と広場に響き渡るのであった。
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