24話 集会は驚きと
「ここら辺のはずなんだけどな……」
ベアはチラシに描かれた地図を頼りに待ち合わせ場所を目指す。
ここは広場から少し離れた住宅街で、とても武器に興味がある人が暮らしているとは思えなかった。
「こんな場所で啓蒙活動? あまり期待しない方が良いな……」
ベア呟きながら辺りをくまなく見回すが、待ち合わせ場所はなかなか見つからない。
「どこも同じような建物だな……。あ、あのすいません!」
ベアは偶然目の前の建物から出てきた老人に話しかける。
すると、
ズルッ!
「あ、危ない!」
その老人は入り口の階段でつまずき、転落しかけていた。
ま、間に合え……!!
ベアは猛スピードで老人に駆け寄るが、とても間に合いそうになかった。
「く、くそ……!」
だ、だめか!
思わず目を瞑るベアであった。しかし、
「よっ!」
その老人はクルッと前に宙返りし、見事に着地した。
「は!? お、わわわ!」
気が抜けたベアは体制を崩し、こけそうになる。
シュッ!
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
そんなベアを先程宙返りした老人が超スピードで移動し、抱き抱えるのであった。
立場逆転してる……?
ベアの頭はこんがらがると同時に、少し恥ずかしさを感じていた。
「あ、ありがとうございます……貴方さっきまであそこに……?」
「ここら辺は石畳みだからな……気をつけるんだぞ」
「は、はい! 助かりました!」
こんな元気な老人がいるのか……?
建物の入り口付近からはうっすらと煙が立ち上っており、そこには老人の足跡がくっきり残っていた。
「はははー! ヒデ爺! また入り口で宙返りしたのか?」
ベアが不思議そうにしていると建物の中から別の老人達が出てきた。
そしてその老人達は笑いながらベア達に近づいてくる。
「お嬢さん、びっくりしたろう? こんな老人が身軽に動けるんだもんな! がははは」
ベアはあっけに取られていた。
「随分驚いたようだね! 実は僕たちも少し動けるんだよ! まあ……ヒデ爺までとはいかないがね」
老人達が自慢そうに語りかける。
みんな元体操選手とかなのか……?
ベアは老人達を再度眺める。しかし、どこからどう見てもただの老人にしか見えなかった。
するとベアを助けた『ヒデ爺』が別の老人達に向かって声をはる。
「おいおい、お前達! お嬢ちゃんをからかっちゃいけないよ。彼女は私を助けてくれようとしたのだ! ……お嬢ちゃん、ありがとうね」
ダンディかつ大人の振る舞いにベアは少し関心を覚えていた。
「いえ、こちらこそ逆に助けてもらっちゃって……!」
ベアは服に付いた埃をパンパンと払い、立ち上がる。
「それにしてもさっきの動き、すごいですね! 皆さんは元体操選手か何かですか?」
「あっははは! 僕たちが体操選手か! 嬉しいねぇ……そう見えるかね」
ヒデ爺が笑いながらベアの肩をポンと叩く。
「だけど、僕たちは普通の老人なんだよ。少し元気な老人。……いや元気になった老人の方が正しいかな」
「元気になった……?それは一体どういう……?」
ベアが元気の秘密を尋ねようとするが……、
「おい、ヒデ爺! そろそろ時間だろう!? 早く行かなきゃミチコさん達に怒られちゃうぞ!」
別の老人がヒデ爺をせかした。
「おっと、そうだったな。悪いねお嬢さん。これから合コ……いや会食があってね。失礼するよ……!」
「は、はい。ではまた……」
不思議な老人達だったな… 。元気すぎやしないか……?
ベアは顎を手に当てて考える。
するとヒデ爺が振り返りベアに向かって何かを叫ぶ。
「おーい、お嬢ちゃん! 僕たちの秘密だけどね、その建物の中にあるよ! 興味があるなら行ってみなー!」
建物の中……? 何だ……?
「わ、わかりました!」
ベアは首を傾げながら老人達に軽く会釈をした。
「なんだろ。でもまあ折角だし……入ってみるか」
そう言ってベアは建物の中に足を踏み入れる。
「なんだ普通の居住用の建物じゃないか」
建物の一階には玄関ホールがあり、階段は3階まで続いていた。
「ふーん……、上に行ってみようかな」
ベアはとりあえず軋む木製の階段をゆっくり上がっていくことにした。
すると、
「ぉぉぉっーー!」
微かに人の雄叫びが聞こえ始める。
「な、なんだ? この声は!?」
その雄叫びは上に向かうにつれ、次第に大きくなっていく。
「うぉぉおおおおー!!」
まるで地鳴りのように鳴り響く人々の声。
「な、何が起こっているんだ!?」
最上階に辿り着く頃には、その声は最大級になっていた。
最上階には扉が一つしか存在せず、
雄叫びはそこから聞こえていた。
「こ、この扉の向こうからだ……。どうしよう。少しだけ見てみようかな……」
竜族かもしれない……
ベアはバースクイーンを握りしめ、扉をゆっくり開け中を覗きこむ。
「おおおおおおーー! バンザーイ!」
中は広々とした集会所になっており、老若男女が集まり何かを叫んでいた。
「な、なんだ!? ここは!?」
ベアは両耳を抑え、轟く声を遮断しようとするが、それでも声は鮮明に耳に聞こえていた。
「では皆さん! ここでお待ちかね”あの方“に登場してもらいましょう! どうぞ!」
なんだ? この集まりのリーダーか? 居住用の建物の中でこんなにうるさくして……注意してやろうか!?
ベアは偶然通りかかったとは言え、限度を超える集会に腹ただしさを覚えていた。
「やあやあ、みんな、どうもどうも!」
しかし、リーダーらしき人が舞台に登場するやいなや、ベアの怒りは焦りに激変していく。
「え、え!? ここ、この建物で!? え?」
ベアは慌ててチラシを見返す。
「ここだったのか!?」
ドンッ!
ベアは勢いよく扉を開け、群衆をかき分け舞台に向かおうとする。
「おおおおー!」
しかし群衆の盛り上がりはピークを迎えており、小柄なベアすら通ることはできなかった。
「全く何をやってるんだか。おーい! ノゼー!」
ベアはリーダーであるノゼを大声で呼ぶ。
……しかし声はまるで届かなかった。
「皆さん! 今日もわざわざ集まってくれて……私は嬉しいぞ! まずは……感謝を述べたい!」
ノゼは両手を広げ、興奮する群衆に落ち着くようジェスチャーで表現する。
「我が団体……武器こよの会に賛同してくれてありがとう! ご存知の通り、この団体は長い間休止していた。メンバーも減るばかりであった。しかし! 魔物や凶暴事件が多発する中、武器の正しい知識を持つことは大変重要である!」
ここでノゼは腰に差した自前の短刀を振るってみせる。
「自分の身は自分で守るこの時代!! 共に武器を取り、互いを鼓舞し合い、敵を迎え撃とうぞ!!」
サッ!
ノゼが短刀を天に向かって掲げると、割れんばかりの感性が鳴り響く。
「な、なんだこの集会。想像以上にヤバいな……はは」
ベアは呆れ顔でノゼを見ていた。
しばらくしてノゼの熱いスピーチが終わると、今度は実践練習を兼ねた勉強会が始まった。
ノゼが直々に武器の使い方を丁寧に教えている。
その光景を見たベアは、ノゼへの説教を一時中止することにした。
「よし! いいぞ! その移動方法だ!」
ノゼは武器の使い方だけでなく、体重のかけ方や体幹を使った運動も指導しており、老人達の健康増進にも一役買っていた。
「はは……魔王直々に指導か。クールが見たら大騒ぎだ……ん? あれ……」
ベアの視界に見慣れたシルエットが入る。
マスクと帽子を被っているが、見慣れたスーツ、そして立ち姿であった。
「なんだ……いるじゃん」
ベアは興奮するクールを遠くから見ることにした。
そわそわ
クールは自分の番が近づくにつれ、しきりにメガネを掛け直したり、ジャケットを羽織ったり脱いだりし始める。
「緊張してるなぁ……」
ベアはため息交じりで、にやにやしながら高みの見物を楽しんでいた。
「よし! では次! ……お、お主良い体しておるな! 鍛えておるな!?」
ノゼがクールの体をパンパンと叩き筋肉を確認する。
「は、ひゃい! 大切な方を守るめ、日々努力しております!」
ノゼに褒められたことがよほど嬉しかったのだろう。クールは嬉し涙を浮かべていた。
「では、この短刀の扱い方を教えてやろう! まずは腕を楽にして……片足に体重をかけてだな」
ノゼの指導が始まるとクールの顔は感動で見るも無残なほどに崩れ、鼻水も垂れていた。
「ぐずっ! ありがどうございまず!!」
「よし、お疲れ様! その調子だぞ! 日々鍛錬だ!」
クールは元気よく「はい!」と返答し敬礼をノゼに送る。
「茶番だなぁ……」
そう言いながらも、ベアは泣き崩れるクールを寛大な目で見つめるのであった。
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