九十四.やる気スイッチ


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  『深淵のやる気スイッチ』


 やる気スイッチ。

 俺のはどこにあるんだろう?


 永遠なる暗闇を果てなく探し続けても見えない見つからない。

 儚く迎える終末の鐘を心に刻んで待ち続けても

 はばたき彷徨う鳥の羽をその手に掴んで待ち続けても

 絶え間なく訪れる予期せぬ深淵(ハプニング)の来訪に戸惑っても

 俺がそれを押す事は決してない。


 見つけてやれない

 俺だけのやる気スイッチ~


By イシハラナツイ

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「──と、いうわけだ。なんか勝手に俺の騎士としての実力を試そうという流れになったが残念だったな。拒否する、やらない、NO.thank-you.ok?」


 俺は地球の歌を口ずさんで拒否した。


「それ本当にチキュウの歌ですか!? なにか皆が口ずさめるような軽快な詞の中に不釣り合いな小難しい言葉が混じってますけど!? 私達がチキュウの文化を知らないからって適当に詞を改変してませんか!?」


 ムセンに即座に突っ込まれる。

 ふむ、こいつには適当なボケをかましてもすぐに見抜かれるな。


「逃げる気か!? やはり腰抜けだったな! わっはっはっ!」


 周囲の兵士の間で嘲笑が飛び交う。


「イシハラナツイ! 何故逃げるんですの!? 貴方には騎士としての矜持(きょうじ)というものがありませんの!?」


 それにイライラしたのかですわ騎士が俺に向かい怒鳴る。

 面倒くさいから無視してだもん騎士に言った。


「行くぞ、だもん騎士。もう手続きは終わったのか?」

「あ……あぁ。審査は問題なく済んだが……」

「だったらもうここに用はないだろう」

「イシハラさん……よろしいのですか…?」

「こんなくだらない事にいちいち応えてやる必要なんかないだろう。言ったはずだ、今はシューズに追い付くのが第一だろ」

「…………!!……確かにそうでした……ごめんなさい……でも、イシハラさんを馬鹿にされたのが許せなくて……」

「さっきも言ったが言いたいやつには言わせておけ。どうせウルベリオン王やジャンヌに異議申し立てをする度胸もないから俺でうさ晴らしをしてるだけだろう。構うだけ時間の無駄、体力の無駄、何もかも無駄無駄無駄。OK?」


「「「「「なんだと!?」」」」」


「こんな奴らを組み伏せるのは簡単だ、あ、やっぱ簡単じゃないな。なにせ俺のやる気スイッチが見つからない。まぁやる気がなくても戦えば勝てるだろうけどやる気スイッチを押さないとやる気が出ない。つまりは雑魚相手にやる気スイッチを見つけるという途方もない無駄な努力をするやる気スイッチが必要なわけだがそのやる気スイッチを探す気力もない。要約するとやる気スイッチがない。OK?」


「「「「「……………っ!!!」」」」」


 周囲にいた兵士達は俺の言葉に更に怒り顔をした。何だこいつら?


「イシハラさん……たぶん物凄く火に油を注いでいます……その前にやる気スイッチって一体何なのですか……」


 その時、物見櫓的な見張り台から鐘が鳴り響いた。


 兵士達があたふたする中、即座にだもん騎士とですわ騎士が状況を確認する。


「何事だ!? 状況を説明しろ!」

「見張りの兵士より伝令!! お……大型の魔物が山中より出現! こちらへ向かっているとの報告です!!」

「門の向こう側からですの!? 隣国の兵士達はやられたんですの!?」

「そ……それが……シュヴァルトハイムの兵は魔物を確認していないとのことで……出現地点は不明!!」

「……あちらの関所からこちらまではほぼ一本道ですわよ!? 周囲の崖にでも潜んでいたとでもいうんですの!?」

「それが……ここ最近関門付近でどこからともなく野良魔物が出現する事が多々あるのです……! 大型の魔物の出現は初めてですが……」



 状況確認していると砦の向こうから、まるで大群が押し寄せてきたかのような地鳴り音が近づいてきた。


 砦がボロボロだからこちらからでも閉じた門の向こう側がよく見える。坂道になっている登山道から巨大な魔物が砦を目掛けて凄まじい勢いで突っ込んでくる。遠目から見てもかなりデカイ。


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? 【暴虐獣(ベヒーモス)】だぁぁぁぁぁぁ!!」


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【暴虐獣(ベヒーモス)】が姿を現した!!

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 兵士達が恐れおののき、叫ぶ。

 仕方あるまい、大きさ的にはまるで20トンダンプくらいの二本角の獣が猛スピードで突っ込んでくるんだから。


「ベヒーモスだとっ!? 何故そのような魔物がこんな場所にっ……」

「言っている場合ではないですわっ! アクア!! このままでは砦は破壊されますわっ!! 食い止めないとっ!!」


 だもん騎士とですわ騎士は剣を抜いて構える。

 ふむ、この世界に来て初めてあれだけデカイ野良魔物とやらに出会ったが随分な迫力だ。


 あれは獣なんだよな? と、いうことは食べられなくもないというわけだ。そして隣には天才料理人のムセンがいる。


 やる気スイッチ。



「どうやらサイズは中型のようだが……あれは一度暴れ出すと非常に厄介な魔物だ。国境兵士達、私達に手を貸せ!! 対大型魔物出現時の防衛作戦はどうなっている!?」

「ひっ……ひぃぃぃっ……」

「何をしているんですのっ!? 早く動きなさいっ! もう目前まで迫っているんですのよっ!?」

「そ……それが……本来の国境防衛の兵士達の要の人員は先の戦いからまだ完治していなくて……我々は非常勤の駐在兵なのです……対大型魔物の討伐など未だに経験がなく……」

「何を言っているんですのっ!? それでよく軽口を叩けたものですわねっ!!? あなた達はそれでもウルベリオン国の兵士ですのっ!? もういいですわ役立たずが!! アクアッ!! わたくし達でっ……」



【一流警備兵技術『魔物通行止め』】


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


 俺は門の向こう側に通行止めの技術を使う。でかい看板が砦を防ぐように設置された。

 

「「「「!!??」」」」


 砦にいる全員が驚きと呆然を織り混ぜたような表情になる。

 

 すると、通行止め看板に突進してきた魔物がぶつかってひっくり返る音がする。俺はその音を確認した後、通行止めを解除して魔物の方へ向かった。


「おい、門を開けろ」

「えっ……? は……はいっ!!」


 砦の門を兵士に開かせると超デカイ図体を横たえた魔物が起き上がるところだった。何これ超デカイ。まるでダンプカーがひっくり返っているようだ。


<グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!>


 ベヒーモスバーガーは起き上がって俺に咆哮した。それだけで復旧中の砦にひび割れがおきる。


 めっちゃうるさいので俺はライトセイバーを構え、適当に斬りつけた。


スパッ ドォォォォォォンッ!!


 魔物は断末魔をあげる暇もなく真っ二つになり、こと切れた。

 真っ二つになった巨体は当然自重を失い倒れた。それに伴って起きる振動と轟音が更に砦の傷を拡げた。


「「「「「「「「なっ……………!!?」」」」」」」」


 周囲の兵士達は呆気にとられながら呆然としているがどうでもいい。

 俺はムセンに伝えた。


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『見つかったやる気スイッチ』


 やる気スイッチ。

 俺のはどこにあるんだろう?


 そびえる山の如し巨体を携え食肉が向こうからやって来た。

 これを捌けば一体どれ程の満腹感を得られるだろう。

 グリルステーキ、ソーセージ。


「いやいや!! イシハラさん!! 歌はもういいですから!! わかりましたから! 食べたいんですよね!? 調理しますから!!」


 歌の途中にムセンが割って入った、失礼なやつだ。

 まぁいい。食べよう。








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