九十三.迷惑なイシハラ親衛隊


───【イシハラナツイ】──


「 」

「……イシハラさん? どうかされましたか? もうそろそろ出発しますよ?」

「空気になってた」


 何かどこかで俺の人生の物語(しょうせつ)をバトルものとはき違えた奴らが暴れ出してる気がする。

 いいか? この俺の人生(しょうせつ)はバトルものじゃない。

 俺がいかにしてだらだら仕事して人生(しょうせつ)を終えるかまでのお話だ。


 勝手にバトルものの展開にするんじゃない。俺はそんな事に一切参戦しないからな。


 そもそも番外編が多すぎる、よそで何をやっていようが俺には一切関係ないんだからそんなもんを載せられても読者は困惑するだけだろうに。


「すみません……何を言ってるのか何一つわからないんですが……そして誰に向けたメッセージなんですかそれは……」

「独り言だ、さぁ行くぞ」


 そして俺達は王都を出発した。


-----

----------

---------------




 王都を出発した俺達は馬車に揺られながら関門を目指していた。

 馬車の中には俺とムセン、そして【ですわ騎士】がいる。


「ツリーさん、本当にありがとうございます。ツリーさんにとっては何の関わりも無い私達にご協力頂いて……」

「ふん、まったくですわ。しかし騎士序列制度が無くなった今、わたくし達の直属の上司は前騎士団長のジャンヌ様ということになりますわ。上司の命令でしたら致し方ありませんことよ」


 ですわ騎士がそう言うと、馬に騎乗していただもん騎士が幌の外から声をかけてきた。


「アイコム、シャルロットの言っている事は言葉半分に捉えた方がいい。文句を言いながらも心の中では喜んでいるのだ。どこか嬉しそうにしている」

「そ……そうなんですか?」

「アクア!! 何適当な事言っているんですの!? わたくしのどこが嬉しそうなんですの!?」

「シャルロットとはそれなりに長い付き合いだ、だからわかるさ。ナツイと関わってから徐々に言葉遣いが変わってきている。こんな事は初めてだ」

「そういえば……最初に出会った時は粗暴な言葉遣いが端に混じっていたような気がしましたが……今はそんな事はありませんね」

「なっ……!? そのような事……ありっ……ねぇですわコノヤロー! わたくしのありのままはこれなんで……なんだっつーのコノヤローテメェですわ!」

「無理矢理に変な言葉遣いにしないでください! さっきの方がいいですよっ! 何故そんな話し方にしているのですか?」

「…………決まっていますわ……わたくしは………昔から……」


「ストップだ」


 俺ははしゃいでいる女子三人組を遮り、声をかけた。


「お前ら何考えてるんだ、今はシューズの話だろう。浮かれるな」


 そして【ですわ騎士】の話を強引に打ち切った。


「………すみません……イシハラさん。その通りです……」

「………すまん、ナツイ……」

「………………」


 女子三人組は浮かれるのをやめ、落ち着きを取り戻した。

 ムセンは複雑な顔をしているが、やがて決意の表情へと戻っていった。


 まったく、今はシューズの過去に関わる話の渦中にいるんだぞ。つまり、少年ジャンプ的に言えばシューズの過去編だ。そんな中で【ですわ騎士】の過去にまつわる話なんかやってみろ。

 過去編の中に過去編が入り、過去編過多になって飽和状態になりもう誰の過去なのかわからなくなってしまい、しまいにはその過去の話の中の登場人物の過去にもスポットライトが当たったりしてしまい、どんどんさかのぼっていって果ては原始時代の話なんかが始まってしまったりして、ついには宇宙創世の話になったりして少年ジャンプ的に言えば確実に打ちきりコースだ。

 週刊連載で長い過去話はあまり人気ないものな、単行本になってまとめ読みすると面白いけど。


 そういうわけで【ですわ騎士】の過去編(はなし)はいらない。


「あ、なにか建造物が見えてきましたよイシハラさん」

「国境関門ですわ。そこを越えたらシュヴァルトハイムですわ」

「エメラルドさんの国ですね。…………近づいてきましたけど……無残にも破壊されているようですね………」


---------------



<チーズ山脈の麓.国境関門>



 俺達は高い山脈の麓にあるボロボロの状態の砦にたどり着く。最早、砦としての機能を果たしているとは思えない。あちこちに資材木材が置かれ、復旧作業の音が鳴り響いている。

 まぁつい最近に魔王軍の襲撃にあったんだから仕方あるまい。


「止まってください、あ……貴女は騎士アクア様! お仕事でしょうか!?」

「そんなところだ」


 だもん騎士のもとに入国検査的なものを行っていると思われる兵士が寄ってきて声をかける。

 面倒な事に出国入国には手続きがいるようでだもん騎士は何やら書類に記入したりステータス画面を開いたりと出入国管理をしている兵士と話合っている。

 そんな事をしていると、周囲にわらわらと兵士が集まってきた。


「おい、見ろ……騎士のマリンセイバー様だ……」

「あぁ……美しい……」

「以前の厳格な雰囲気は和らいだが……凛とした佇(たたず)まいは健在だな……」


 どうやらだもん騎士目当てのようだ。

 まぁこいつは一人でわけわかんない事わめいてなければ確かに美人だ。と、いうか俺の周囲にいる女性は基本的にやかましくわめいていなければ全員美人か美少女だ。

 ここにいるムセンもですわ騎士も。


 いつもうるさいのがそれを台無しにしているけど。


「え、イシハラさん……そんな……///」

「……うるさく言うのは貴方が突飛な発言や行動をしているからではないですの………それにしてもザワザワとやかましいですわね……」


 周囲のざわめきにイライラしたのかですわ騎士が幌を開き、顔と口を出す。


「大概になさい、兵士達。あなた達は職務中ではないんですの? 早く持ち場へ戻りなさいですわ」

「ネッ……ネイチャーセイバー様まで!? 女性騎士お二人でどんな任務なのでしょうか!? 危険ではありませんかっ!? よろしければ我々もご同行致しましょうかっ?」



 綺麗所が増え、余計に兵が集まってしまった。

 それどころか復旧作業をしていた建築作業員にまでざわめきが伝わったようで雑音が大きくなった。


「やかましいですわ!! あなた達はご自身の仕事をなさいと言っているのですわ!! 騎士が三人もいるのにあなた達の出る幕なぞあるわけないですわ!! 身の程を弁えなさい!!」


 ですわ騎士はそれに余計イライラしたのか怒鳴った。


「さ……三人?」

「ほぅ?シャルロット、ナツイの事は騎士として認めていないのではなかったか?」

「あっ……!! ちっ……違いますのですわっ!! これはっ……そのっ……」


 だもん騎士に問われ、ですわ騎士はあたふたしている。

 兵士達は何にひっかかったのか顔を見合わせ、先ほどまでとは違うざわめきを起こしていた。


「………マリンセイバー様……こちらには……イシハラ・ライトセイバーとの記入がございますが……今こちらに……?」

「……? 馬車にいるが……何故だ?」


 兵士達は明らかに顔を曇らせている。


「…………我々もお話は聞いております、『警備兵』ながら国を守り『騎士』の名誉を授かった、と。……ですが、我々は皆……それらを全て噂で聞いただけに過ぎません。直接見たわけではありませんから」

「……ああ……しかも…美女達を毎日のように引き連れてるって噂だ……今だって……騎士の地位を授かったのをいい事に任務と称して女性騎士二人と……」

「羨ましいっ……じゃなくて許せねぇっ! どうせ大した事ねぇやつに決まってるぜ!!」

「そうだそうだっ!! 俺達が復旧作業に汗水流してる時に美女引き連れていいご身分じゃねぇか!」

「警備兵で騎士っつーんなら復旧作業の間、魔物から俺らを守れってーんだ! それが仕事だろ! !美女を引き連れやがって!」


 兵士達が不満を口にすると、復旧作業をしていた作業員達も賛同し野次に加わった。

 野次の内容のほとんどに『美女を引き連れて』が入っている。


 こいつら語彙力ゼロなのか?


「イシハラさん、何か好き勝手に言われていますよ!!」

「ふむ、ところで美女と美人、美少女の境界はどこなんだろうか?年齢や立ち振舞い、雰囲気で決まるのだろうか? 少女と呼ばれる美しい女性が人としても美しく、大人な雰囲気だったならそれは美人なのか美女なのか美少女なのか曖昧すぎやしないか? というわけでそろそろ寝ようと思うんだけど」

「何にも『というわけで』じゃありませんよ!? 寝るための口実になっていませんからね!? そんな事よりいいんですか!?」

「言いたいやつには好きに言わせておけ、俺には関係ない」


 認めさせるために実力を見せつけろ的な展開になるのは御免だし。

そんな事のために使う体力は一欠片もない。


「……ふっ、それでどうしたいというのだ? ナツイは陛下やジャンヌ様に認められ騎士になった、私も彼には称号に相応しい実力があるのを知っている。陛下や私達の眼にケチをつける、という事か……?」


 だもん騎士も圧を出しながら何か怒り始めた。

 何でこいつが怒るんだよ、面倒くさい展開にするんじゃない。


「い……いえ……我々はそのようなつもりは……しかし! その実力のほどを確かめさせて頂きたいのです! 先の戦では魔王軍を侵入させてしまったとはいえ、我々とて関門防衛を任された兵士! ここにいる選りすぐりの兵士と戦いその力を示して頂きたいのです!」

「そ……そうだっ! もしも俺達が勝ったらすぐに騎士の称号を返上しろ! 掛け持ちなんかしないで大人しく警備兵だけやってろ!」

「あぁ! そしてマリンセイバー様とネイチャーセイバー様に二度と近づくな! 隠れていないで顔を見せろ!」


「「「そうだ! 腰抜け野郎がっ!!」」」


 兵士達と職人達の野次が砦中に響く。


 やっぱりそんな展開になった。

 まったく、騎士の称号を持たされた時点で予想できたことだがやっぱり軽々と掛け持ちなんかするもんじゃないな。

 まぁ俺の答えはもう決まっている、今はそんな事してる場合じゃないし。


 俺は馬車から降りて兵士達に言った。


「ことわ」

「………ふっ……受けて立ってやろうではないか……そして後悔するがいい……ナツイを腰抜け呼ばわりした事をな……」

「……そうですわね……たかが国境兵士如きが騎士を侮辱するなどあってはならない事ですわ………」

「……ごめんなさいイシハラさん……あなたが面倒な事を嫌うのはわかっていますが……あなたが馬鹿にされては私も黙っているわけにはいきません……」


「「「思い知らせて(やろう)(やりなさいですわ)(やってください)」」」



 ムセン、だもん騎士、ですわ騎士は俺の言葉を遮って真っ向から面倒なケンカを買って出た。


 何故こうなる。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る