八.フレンド登録
〈宿屋『羊毛』〉
「んん、もう朝か……」
鳥の囀(さえ)ずりを耳に捕らえながら視界の端に写る地球時間を確認してみるともう11時だった、寝すぎた。異世界に来て疲れていたのだろうか、体は仕事モードだったからいつも通り6時くらいに起きれると思ったのに。
「お……おはようございます……」
横を見るとムセンが椅子に座っていた。
「おはよう、早いな。よく寝れたか?」
「ね! 寝れるわけないじゃないですか! あれから一睡もしてません!」
何やってんだこいつ。異世界に来て疲れてるだろうに寝ないでどうする。
「だ……だって……一緒の部屋で……一緒のお布団なんて……」
そうだ、あれから宿屋に来た俺達だったがどうやら魔王とやらが登場してから冒険者が爆発的に増加し宿屋需要が高まり、空き宿がほとんど無いという事を知った。だから一部屋しか取れず、布団も一つの六畳間しかなかったので二人で一部屋という事になった。
「何だ、誰かと寝た事ないのか?」
「あるわけないじゃないですか! 私まだ16歳ですよ!? 何て事聞くんですか!」
「俺のいた世界では赤ん坊の頃から両親と寝てたぞ」
「何の話ですか!! 私だって両親となら一緒に寝てましたよ!」
なんか話が噛み合わないな。寝不足なのか何か怒ってるしこういう時は話を逸らすに限る。
「それよりも腹が減った、サンドイッチじゃない何かを食べにいこう」
この宿、朝食も出ないと来たもんだ。まぁ格安だったから仕方あるまい。
「……イシハラさんと話をしてると色々考えていた自分が馬鹿らしくなってきます……」
何かブツブツ言ってたけど気にせず俺達は朝飯を食いに街へ向かった。
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〈城下町・飲食店通り〉
街を歩いてみると意外と色々な店があった。何か店の看板文字も日本語だしここ本当に異世界か?
「ムセンはあの日本語とか読めるのか?」
「ニホンゴ? 私には私のいた世界の文字に見えますけど……まぁそれは私のつけているコンタクトレンズが視覚翻訳しているんですけど……イシハラさんもそういえばいきなり言語がわかるようになったんですよね」
思い返してみるとスマホがなんか発光したらわかるようになったんだよな。スマホの機能が俺に備わったとかそんなんか? 深く考えると腹へるからそういう事にしておこう、スマホって便利。
「でもイシハラさん、お金……足りますかね……? 宿は二泊分払ったので今日は大丈夫ですけど……あと銅貨二十枚しかありませんよ……」
「食って仕事探せば大丈夫、腹へってると力出ない」
「……はぁ……わかりましたよぉ……でもなるべく出費は抑えましょうね? 何があるかわかりませんから」
何急にお母さんぶってるんだ。
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〈定食屋『足の小指』〉
「ふぅ、まさか豚肉っぽい肉定食まであるとは。満足、とても満足」
俺は注文した豚肉定食的なものを胃に流し込み満腹感を得て落ち着いた。
しかしファンタジー世界に豚肉定食的なものがあるとは。これも過去に来た異界人とやらの影響だろうか? もしかしたら地球人も何人かこの『オルス』に来ているのかもしれないな、そして地球の文化をこの『オルス』に持ち込んだ。それを『オルス』人が真似して『オルス』的文化に取り込み『オルス』のための『オルス』による『オルス』技術に『オルス』った。
「何かよくわからない顔をしてますけど……大丈夫ですかイシハラさん?」
「そんな事よりもいい加減ふざけるのをやめて情報を整理してみよう、いつまで旅行気分でいるつもりだ」
「私がいつふざけてましたか!? 昨夜からそれを話合いたかったのになにかあると『ハラヘッタ』か『オレもうネムイ』しか言わなかったのはイシハラさんでしょう!? 子供ですかあなた!」
とりあえず俺は昨日神官に聞いた通りステータスオープンとやらをやってみる。
「おお」
本当に個人情報が目の前の空間に出た。ハイテク。
「私も開きます……色々項目がありますけど見てみましょう」
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【イシハラ・ナツイ】
地球から召喚された35歳男性、前職は『警備員』。
身長178cm 体重70kg AB型。
◇装備
・安全ヘルメット ・防寒着 ・制服 ・安全靴 ・警笛
◇STATUS(パラメーター)
体力A 精神力S 腕力C 脚力S 知力B 防御力C etc……
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うわっ、何か面倒くさっ。こういうパラメーター的なものを見ると頭痛い。人間は英語や数字で表せるものじゃねぇ!
俺はこの項目を見るのをやめた。
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◇『資格(センス)』
・『一級警備資格』 ・『警備兵指導教』
・『異世界言語通訳士』 ・『ボディーガード』
・『ライダー』 ・『危険物(罠)鑑定取扱士』
・『機械警備取扱士』 ・『ダンジョン警備業務士』etc………
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うわっ、私の資格多すぎっ? もう何か文字の羅列を見て眠くなってきた、食後だし。とりあえず地球で取った資格がこの世界に形を変えて反映されてるとかそんなんだろう。
つまんないから『技術』を見てみよう。
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◇『技術』
・『魔物引き付け誘導【極】』
・『フットワーク【極】』
・『周囲確認術【極】』
・『危険予知【極】』
・『無の極意』
・『第三者交渉術』・『棒術』・『近接格闘術』・『機械警備メンテナンス』・『不動の極意』・『緊急蘇生術』・『ダンジョン把握術』・『危険物鑑定術』・『運転技術』etc………
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もっと多かった、もう見るのやめた。
「イシハラさん、何か光ってる項目がありますよ?……【フレンド登録】って何でしょうか?」
俺が知るかい。スマホゲームみたいに友達になると何か特典があるとかだろう。
「やってみましょう? イシハラさんに【フレンド登録申請】しましたよ」
「許可した」
「……あっ! イシハラさんの情報がこちらで見れます!……性格……不思議天然でマイペース……他人からは全く理解できない言動や行動をする……凄い! 正確ですよこの情報!」
「そうか」
「良かったです! フレンド登録して! イシハラさんの事が少し知れました! これからいろんな人とフレンド登録できれば良いですねっ!」
「【ムセン・アイコム】身長161cm.体重47kg A型 スリーサイズ上から88.58.84……」
「キャアアアァァァァァァァァッ!? 何読み上げてるんですかイシハラさんっ!! えっ!? ウソです! そこまで知られちゃうんですか!? 画面消して下さいすぐにっ!!」
「俺にしか見えてないから大丈夫」
「イシハラさんに見られたくないから言ってるんですっ! ぅううっ……もう男の人とは絶対フレンド登録しませんっ! 絶対もう私の項目見ちゃダメですよっ!?」
「さて、腹も膨れたし眠くなるから職業斡旋所とかいうところに行ってみよう」
「聞いてますかイシハラさんっ!? 待ってくださっ……置いていかないでくださいよぉっ!」
ようやく仕事か、ダラダラできればいいけど。
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