七.デート
「はーい見てって見てって安いよそこの異界カップル!!」
「そこの異界人カップルさん! 適性武具を揃えるならうちに来な!」
「職業別案内所はあちらだよ~あっちには異界の異文化店もあるから寄っていってね~異世界カップルさん」
くっそうざい。俺は人混みと客引きが大嫌いなんだ、行きたいなら勝手に行くから黙ってろ。
人混み特有の騒がしさと客引きのうるささに俺はイライラした。
「カ……カップルじゃありませんっ! ねぇイシハラさん?」
「……」
「ぅうう……なにか怒ってます?……ごめんなさい……」
「ん? 何が?」
なんかムセンが勝手に俺が怒っていると勘違いして謝ってきた。
俺は怒っていない、客引きが世界一嫌いだからイライラ怒っているだけだ。
「………イシハラさんって情緒不安定なわけじゃありませんよね?」
「失礼なやつだな、それよりいつまでついてくるんだ?」
「ぅう……ダメですか?」
「考えてみろ、俺もムセンとは同じ境遇、状況なんだ。ついて来ても意味がない、何も知らない者同士共倒れする可能性だってある。だったらこの世界の人間を頼りにした方がいい、何か【神官】が『適職』とか言われてたし元の世界に帰りたいならさっきの美人神官に弟子入りして世界の事を知ってそれから帰る方法を探すとかやりようがあるだろ?」
「………でも、イシハラさんは……」
「俺は俺で勝手にやる、流れるままに生きるだけだ」
「………やっぱり嫌です、たとえあの神官さんだけはいい人だったとしても……あんな最低な人達に頼るのは嫌です。それだったら一人で生きてみせます」
ムセンは最初に勇者達に物言いしたしっかりとした凛とした顔つきになった。
「いい心構えだ、頑張れ、それじゃ」
「ぅえええん!! そうじゃなくてっ……待ってください~!」
かと思ったら涙目でとたとたついてきた。こいつこそ情緒不安定なんじゃないのか?
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【地球時間18:42】
〈城下町南西門〉
俺は一通り街を見回った後、街の出口に来ていた。
「え? 街を出るんですか? イシハラさん。もう直に夜ですよ?」
確かに。何か地球より若干時間の進みが早い気がする、重力が違うからとかそんな理由か? 宇宙の映画でそんな事言っていた気がする、よくわからんけど。
「出るんじゃない、ちょっと門兵に確認するだけだ」
俺は内門に立っている兵に話しかけた。
「ちょっと尋ねたいんだが、街に出入りするのに身分証みたいなのって要るか?」
街を見回って気になったが魔物対策なのか知らないが街は壁に囲まれている。安易に外に出て入れなくなっては面倒だ。
「あ? ……あぁ、あんたら異界人か………また召喚したんだな……ったく、可哀想に……役に立たなかったら放り出しやがるんだもんな。王はそんな人じゃないんだが……あの勇者の手前下手な口出しできないもんだからよ……災難だったな」
「そうでもない、どうせ一度死んだ身だ。それに王が悪い人間じゃないのは見ればわかったからな、王を立てて大人しく暮らす事にするよ」
本当はただダラダラしたいだけだけど。
「兄ちゃん……変なやつだな、召喚の儀は確か今日だったろ? 大抵のやつは初日はうろたえて何もせずに寝るだけだが……『身分証』だったな? 基本的にその国の通行証があれば国内の町村はどこへでも入れる、国を越える場合はその都度申請がいるがな。『身分証』は何かしらの職業に就けば大体発行されるぜ」
「俺達がこの街に出入りするのにも必要なのか? 少し外に出たい時も?」
「原則だからな、まぁ門兵と顔見知りになりゃ少しの時間くらいなら見逃してやれるぜ。兄ちゃん外に出たいのか?」
「まぁ今日じゃなくてもいいんだけど少し外の世界を見てみたいかな、働く前に」
「いいぜ、この時間帯に来りゃ俺が通してやるよ。交代までに帰ってこなきゃ街には入れねぇがな。だがこの近辺にも魔物がうようよしてるからお勧めしねぇぞ……まずは職について適性武具を揃えてからのがいいんじゃねぇか?」
「あぁ、考えてみるよ。ありがとう、俺はイシハラだ」
「俺はダイスだ、何かわかんねぇ事があったら訪ねてこいよ」
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やっぱり見た感じいい奴そうだったからな、当たりだ。人を見る目は養っておいて正解だな。
しかし外に出れないんじゃ宿に泊まるしかないか。街中で寝て捕まると余計に金がかかる可能性もある。大体宿の相場はわかった、手持ちで二泊くらいはできるから大丈夫だな。
「……凄いですね……イシハラさんは……」
「何が?」
「こんな状況でも……前へ進むため色々考えられてて……色々な人に臆面なく話しかけて……見習いたいです……」
「お前もやればいいじゃん」
「……私には出来ません……人見知りですし……何をするにもおろおろしちゃって……よく同じクルーにも怒られてましたから……」
「変わればいいじゃん」
「……ぅう……真面目に聞いてくれてますか…?」
「それができない奴には言わない、ムセンは最初に城で勇者一行に喧嘩を売った。周りが敵か味方かわからない状況で、誰にでもできる事じゃない。だから言ってる」
「け、ケンカを売ったんじゃありません! あれは向こうが悪いんです! ……でも、ありがとうございます……変われるでしょうか……私でも…」
「知るか」
「ぅう……やっぱり聞いてくれてないじゃないですかぁ!」
何怒ってんだこいつ。そしていつまでついてくるつもりだ。まったく、こいつの行く末が思いやられるな。
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