四.異世界とハンバーガー
俺とパイロット少女は城門まで見送られ、追い出されるように城を出た。
遥か下方には彩りのあるいわゆり城下町とやらが見える。えらい高い所に城を建てたもんだ、ここからでも景色を一望できるな。
目の前にはすごい長い石造りの階段がある。階段の中腹あたりには豪華な建物がめちゃくちゃあって、その下にも街がある感じ。
これ徒歩で降りなきゃならんのか、マジだるい。
「じゃ、そういう事みたいだから。お疲れ」
俺はパイロット少女に声をかけ、階段を降り始めた。
「ぇえええっ!? ちょ……ちょっと待ってくださぃぃ~!」
なんかパイロット少女もトタトタついてきた。
「イシハラさん、行く当てとかあるんですか!?」
「とりあえず日雇いの仕事見つけようかと思って、それじゃ」
「ぅえええん! 待ってくださいよぉ!」
なんだようるさいなこいつ。
「異界で……不安とかないんですか!? もう少しこう……なにか……落ち込むとか……」
「それより俺は今ハンバーガーが食べたいんだ、それしか考えられない」
「……ハンバ? 何ですかそれ? この世界にもある食べ物ですか?」
「知らんけどなければ作る、考えるのはハンバーガーを食った後だ」
「でも……材料とかお金とか……」
「だからそれを得るためにとっと働こうとしてるんじゃないか、バカかお前」
「ぅう……どれだけ前向きなんですか……お……置いていかないでくださいぃ」
「あんたもどう生きるか考えたらいいじゃないか、折角拾った二回目の人生だろう」
「……イシハラさんほど直ぐに思考が働かないんですよ……自分が死んだっていうのも信じられないですし……」
「『人生は成るようにしか成らない、だったら深く考えないで楽しめ』って偉大な言葉が俺のいた世界にはある。俺はそうやって生きるんだ。考えてても時間の無駄な事が人生にはある、だったらその分さっさと前に進んだ方がマシだ」
「………素敵な考えだとは思いますが……その言葉を残した人は幸せに生きられたのでしょうか……?」
「幸せに生きてるぞ、俺が今作った言葉だし」
「………………イシハラさんの性格が掴める気がしません……」
話していると腹の虫が鳴った。あかん、腹の限界だ。仕事をしようにもこれじゃあ力が出ない、これは困ったぞ。
「イシハラ様、ムセン様」
上段から声をかけられビックリした。見上げるとそこにはさっきの美人神官がいた。
「……まだ何か?」
パイロット少女は美人神官を睨む。
何かケンカでもしたのか? それよりも俺は腹がへって力がでない。
とりあえずエネルギーを使わないように無言でいよう。
「こちら幾ばくかの支援金と職業斡旋ギルドへの紹介状でございます、そしてこちらがこの世界での人言語を記した書になります。まずはこちらを覚えるのが宜しいかと……そうしなければ会話すらままなりません」
「……こちらの世界の言語……ですか? どうしてですか? さっきだって今だって普通に話してるじゃないですか」
「それは私の『資格』【異世界言語通訳士】の『技術』です。私のいる空間半径50メートル程の言葉を自動的に貴殿方の世界の言語に翻訳しています」
そうなんだ、何て便利。
ん? でも大神官の美人が近くにいない時でもさっきからこのパイロット少女とは普通に会話できているけど。
まぁいいか、考えると空腹で死ぬ。無心でいよう。
「それからもう一つ、自身のステータスを確認したい場合は手を前にかざして念じてみてください。自身の持つ『資格』と『技術』などが確認できる筈です。他人には見えませんのでご安心を」
パイロット少女は神官とやらに言われた通りに手を自分の前にかざす。すると地球の機械音みたいな感じの音がしてパイロット少女の前の空間が少し歪んだ。そして驚いたような顔をする。どうやら本当らしい。
「ほ……本当です……」
「その他お困りの事がありましたら城下の教会に来て下さい、魔王軍との争いで多忙な身ですが……できる限り御力になりますので。それでは」
美人の神官は城へ戻っていった。
「……あの御方は……悪い方ではなさそうですね……」
(今更気付いたのか、あの場でクズじゃない奴は二人だけだったのに。美人神官とTHE王様だけだ。これでも現場で多くの人間と関わってきたからな、大体わかる。もう少し人を見る目をつけた方がいい)
「………」
「……えっ? えっ? イッ……イシハラさんっ? 私……顔に何かついてますかっ?」
パイロット少女は何故か顔を紅くしてあたふたしている。
あ、そうだった。俺は今言葉を発しないようにしてたんだ、話しかけてたつもりだったのに。
まぁいいか、何か金貰ったみたいだしハンバーガー食べに行こう。
こうして異世界に来た俺はまずバーガーショップを探す事にした。あるといいんだけど、ハンバーガーショップ。俺は今、脳がハンバーガーになっていてそれしか受け付けない。
異世界なぞ今はどうでもいい。
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