三.パイロット少女

 「ちょっと待って下さい」


 笑い声が聖堂に響く中突然、横にいたパイロット少女が凛とした声を上げた。

 さっきまで泣きそうになりながらぐずってたのに急にどうしたこの女。


「話はまったく意味がわかりませんけど……勝手に呼び出しておいて嘲笑(あざわら)うなんてあまりにも礼を失しているとは思いませんか?」


 パイロット少女は周囲の嗤う面々に言い放った。その顔には先程までの困り顔は演技だったと言わんばかりの力強さがあった。ふむ、言う時は言うタイプか。中々俺の好きなタイプだ。


「あぁん!? 何だんこのブス?! アタシらに言ってんのん!?」


 勇者の横にいた白フードの女がメンチを切る。ブス呼ばわりしてるけどどう見てもパイロット少女の方が見た目も雰囲気も可愛らしいけど。


「……っ! ぅうっ……」


 パイロット少女は睨まれて押し黙ってしまった。まぁあの性格ブス、顔怖いもんな。


「どう見てもあんたの方が可愛いし、あの女性格もブスだから気にするな」


 と、俺は思った事を声に出した。本音をつい声に出してしまった、よくやっちゃうんだ。まぁいいか。


「えっ!? あ……あの……」

「あぁん!!? 何だとんこのオッサン!?」

「静粛に! 王の御前ですよ!?」


 白フード性格ブスが俺に飛び掛かろうとした瞬間、大神官さんとやらが一喝し場は静かになる。白フード性格ブスも大人しくなったようだ。そんな偉いのかあの美人神官。


「ちっ……覚えてろよん警備兵ごときが……」

「くくく……お前中々面白いやつだな……」


 なんか馴れ馴れしくチャラ男侍が話しかけてくる。

 それより腹へったんだが。ていうかここがどこか知らないが帰りの交通費どうするか。仕事現場への往復分の交通費と昼飯代くらいしか今日は持ってこなかったからなぁ。最悪徒歩で帰らなければなるまいて。誘拐されたここが離島とかだったら絶望的だな。


「うふふ、落ち着きなさいなリィラ。それよりも勇者様? 『天職』ではないみたいだけど……折角召喚したのだから残り二人の『適職』も教えてもらわない?」


 勇者の隣にいたもう一人。魔法使い定番の黒い帽子を被ったセクシーな魔女みたいな女が勇者に話かける。


「うーん……まぁ前衛が欲しかったしな……『天職』じゃなくても育てるか……いい職業だったらな」

「というわけで大神官様? 二人の『適職』も教えてくれるかしら?」

「承知致しました、女性の方は『適職』……【神官】です。男性の方は……『適職』……【侍】です」

「うふふ、【神官】に【侍】ね……前職により獲得している技術のスタイルや特技も開示頂けるかしら?」

「はい、女性の方は……主に治癒術を扱えるようです。他には栄養管理士などの資格も備えていますので……給士や料理人などが向いているかと……」

「はっ! つまりメイドなのん! いらないのん! 治癒じゃアタシと被ってるのん!」

「うふふ、それでお侍君の方は?」

「男性の方は……特に資格を有してはおりませんが……刀の扱いに関しては多くの技術を有しているようです。戦闘事に向いているようです」


 俺は美人神官に質問した。


「何です『資格』とか『技術』って」


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☆MEMO『資格(センス)』


 『技術』の大元であり、それを扱える技術を持つ地位身分の証明。

 異界から召喚された場合、異界で取得した資格がオルスでそのまま使える事もある。

 『資格』取得によりその職業の『技術』習得が可能になったりその職業での賃金が上がったり職業に就くのに有利になったりする。

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☆MEMO『技術(スキル)』


『資格』を取得した事により使える術技。

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 ふーん、なるほど。いや、どうでもいいけんだけどその妄想に対する無駄な設定のこだわりには少し感心した。


「なぁ、『侍』って何だ?」

「うふふ、刀という剣を使うある島国特有の職業よ、要するに剣士ね」

「おぉ、いいじゃんか剣士。よし、今回は長髪のお前だ。お前をパーティーに入れてやる、光栄に思えよ」

「……え? 俺? いやいや、よくわかんねぇけど行くわけねぇっしょ。つーか、早く家に帰してくれよ」


 指名され長髪チャラ男は困惑している。


「残念ながら……貴方達三名はもう元の世界に帰る事はできません。死亡したのですから当然です、貴方達は神に選ばれ元の肉体のまま新たな人生をこの『オルス』で使う事ができるのです」

「いやいや……茶番はもういいっつーの……俺らに何を望んでんだよ……」

「まだ信じておられないようですね……では……一度外へ出て頂きましょう……王、宜しいでしょうか?」

「む、構わん」


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〈ウルベリオン城・中庭〉


 外に出た俺達の目に飛び込んできたのは、「ファンタジー」って感じの世界だ。細かい風景描写は面倒くさいから省く。


「……うそ……」

「おいおい………え?マジ?」

「信じて頂けましたか? 貴方がたの世界の事は存じませんが……同じような風景がありますでしょうか?」


「「…………」」


 パイロット少女とチャラ男侍は押し黙る。この二人はどんな世界から来たんだろうか。

 この風景を見て俺はもうここが地球ではない場所だって事を信じた。風景は海外を探せばありそうだけど、さすがに空に浮かぶ島とか空の四分の一を覆う紫の月みたいなものとかはないからなぁ。

 異世界に生まれ変わったって本当なんだ、まぁどうでもいい。


「すみません、腹へったんですけど飯とか出ます?」

「…………イシハラ様、貴方はもう信じて頂けたということで宜しいのでしょうか?」

「はい、俺地球の日本のお金しか持ってないんですけどそれで飯とか出してくれます?」

「………残念ですが……異界の通貨はまだ『オルス』で使用する事はできません」


 マジかよ。じゃあ日当を早いとこ稼がないと餓死してしまう。こんなとこにいる場合じゃない。


「あ……あの……現実を受け止めるの早すぎませんか?」


 パイロット少女がえらくすっ頓狂(とんきょう)な事を言い出す。


「現実に生きてるんだから当然だろう、とにかく俺は腹がへったんだよ」

「お前……他に感想とかねぇのかよ……これからどうすりゃ……」

「リュウジン様は勇者様御一行に加わるということでこちらで身元を預からせていただきます」


 どうやらチャラ男侍はリュウジンって言うらしい。ここに来てから一番どうでもいい情報だ。


「あとの二人は知らねーからん。死ぬまで警備兵でもやってればん?まぁその前に魔物に殺され」

「じゃあお疲れ様でした」


 腹が減った俺はとっとと仕事を探す事にした。なんか性格どブス白フードが言ってたけど無視して城の出口へ向かった。


「きいぃぃぃぃッ! 何なのんアイツ!!」

「放っておけよ、警備兵が天職のやつなんてどうせ魔物にすぐやられるだろ」

「……ふん、それもそうねん! 助けを求めてきたら笑って見殺しにしてやるわん! ざまぁないわねん!」


「あ……あのっ! イ……イシ……ハラさん?! 待って下さい!」


 パイロット少女が何故か俺を呼び止め向かってくる。しかし、それを勇者とやらがふさいだ。そしてパイロット少女に何か話しかけている。


「なぁ、君はどうするんだ? 正直タイプだしさ補助としてなら俺達勇者一行に加えてやってもいいぜ? 衣食住は保証される、戦闘はできなそうだから……夜の相手とか」

「っ!!」


 勇者と何話しているか遠くてよく聞こえなかったが、パイロット少女は激しい顔つきで勇者一行を睨んだ。


「あなた達……全員最低です! 人を勝手に喚び出しておいて……用がなかったら「はいさよなら」ですか!! こんな場所っ……頼まれたっていません!」

「はっ! 頼まねーよんブスが! さっさとどっか行けよん!」

「……っ!」


 何かケンカしてる、女同士のケンカはとてつもなくメンディーから嫌いだ。無視してさっさと行こう。


「あのっ! イシハラさん待って下さい!」


 なんかパイロット少女もついてきた。


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