第9話 患者たち

彼は、白衣を着た恰幅のいい男性を見つけると、

「今度、こちらを担当させていただくことになりました」

鮮やかな手付きで、手の中に現れた白い紙を差し出しながら言った。

「ああ、そうですか。こちらこそ、お願いしますよ」

腰を90度曲げ、白衣の男性を見送りながら、

「あら、どうしたの?」

と、言う声に振り返ると、顔見知りの看護師長が、ニコニコしながら立っていた。

看護師長が、「今日の営業は、このくらいにしておいてね」

病室に誘うように入らせる。

廊下をモップがけしている清掃員も、手を休めてその様子を見ている。

看護師長は、思った。

この病院には、さっきの営業ノイローゼの人や、医者になりきってる恰幅のいい男性、毎日毎日、廊下を掃除している人などなど。

まったく、こっちのほうがおかしくなりそう。


看護師長は、そう思いながら、自分の病室に戻っていった。



<了>

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