第2話 人造手

彼が仕事から帰ってきて、扉を開けると、いつものように人造手が、目の前にゆらゆらと浮かんでいた。

丁度、大人の手くらいの大きさで、手首からしかない。

最近発売された「手」型のロボットである。


最初は慣れなかったが、今は、当たり前になった。

音声認識機能によって私の声に反応する。

部屋の電気をつけるとか、リモコンのボタンを押すとか、じゃんけんをするとか、いろいろと操作できる。

もともと、孫の手をロボットにするところから開発がスタートしたとかで、説明書の最初には、背中をかくと書かれている。


うっ!?

急に、感じたことのないような痛みが心臓を貫いた。

目の前には、ゆらゆらと、人造手が。

彼はとっさに言った。

「いつものとおりに」

薄れる意識のなかで、”そうじゃない。救急車を呼ぶんだ“と思ってた。


その部屋は、夜、カーテンが閉じられ、灯が点く。

朝、カーテンが開けられて、

夜、カーテンが閉じられて、…。


<了>







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