散文の詞

渡敷 怜

第1話 巡り

彼は、自分の家の墓の前にしゃがみ手を合わせていた。

その周りを線香の香りと煙がゆっくりと流れている。

彼の両親は、ボールを追いかけて飛び出してきた少年を避けようとして、事故に遭った。

もう七回忌である。

「おやじ…、おふくろ…」

彼は、合わせていた手を離し、閉じていた眼を開け立ち上がると、墓の前で大きく一礼して、その場を離れた。

駐車場のバイクのところに戻ると、墓がある方向を一度見てから正面に向き直り、荷物を括りつけ、ヘルメットをかぶり発車した。



転がるボール、飛び出す少年。

デジャブだと思いながらも、とっさにハンドルを切った。

バイクは、驚いた顔のまま固まった少年の横をものすごいスピードで通り過ぎていった。

その後には、砂埃が舞い上がっている。



それからも、毎年、この時期になると、その墓には、花が手向けられてる。


<了>

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