第15話いざ戦いの銅鑼が鳴る
「思ったよりも早く着いたな、これなら十分休憩できるな。」
目的の村に着いたのは昼を少し回った位だった。
ジョンが想像した通りの小さな村で、これから発展されていくにしてもまだまだ時間がかかるだろうことは容易に見て取れた。
だからこそゴブリンの存在は非情に邪魔なのだ。
「取り合えず村長さんの家に集まって、それからね。」
セリエに促されて、皆村長の家を目指す。途中村人に場所を聞き、自分たちが冒険者だと分かると途端に顔が明るくなった。やはり不安な日々を送っていたのだろう。村長の家に着くととても歓迎された。
村長の話を聞くと、二十匹程の群れが夜な夜な村の中を徘徊しているという。そればかりか外に置いてあった道具類を壊したり持って行ったり、柵などを破壊したりと大分おいたが過ぎるようだ。
追い払う事も考えたそうだが、それは考えるだけに留まった。
集団で行動するもののゴブリン自体は正直に言って弱い。しかし奴等は集団で狙いを定めると一つの目標に向かって雪崩れ込んでくるのだ。村人もその習性については知っているし、だれも最初の犠牲者になりたいとは思わなかった。
例え手に持っている物が木の棒であろうとも、複数によって滅多打ちにされればどうなるか。考えなくても分かるだろうというものだ。
「二十匹、まぁお値段なりと言った所で。」
報酬は銀貨五十枚だった。ならばこの規模は妥当だった。依頼内容をこなせば村長から模様の付いた木の割符が渡され、それを冒険者ギルドの受付に渡して受理されれば報酬が貰えるという仕組みだ。
「この数なら、ジョンの言ったやり方で良さそうだね。それにしても、これじゃぁ待ってる時間の方が長そうだねぇ。」
「そうね、でも人数が多い分には問題は無いし。今回はアルの初めてって事だから、優しい内容でかえって良かったかもしれないわ。」
女性二人が言う。ジョンは笑っているが、アルベールは何か含むものを感じている。
「じゃ、手筈通りって事で。俺ちゃんは休みますんで。」
ジョンがゴロンと横になる。皆もそれに倣い各々休息をとった。開拓し始めの村に宿屋など無いので、村長の家でである。
次第に日が暮れ、夜の帳が落ち、そして招かれぬ来訪者が訪問する時間となった。
アルベールは村の中央付近の家の陰に隠れている。セリエとミリアムも同様だ。ゴブリン達が村の中に入り、頃合いを見て松明を持ったジョンが盾を鳴らして合図を送った。
ゴブリンの何がいやらしいかと言って、こいつらは自分が悪さをしているのだと自覚している所だ。そもそも夜行性かどうかも怪しい。
加えて少数で来た場合は逃げるのだ、それも一目散に。相手が少数でこちらが多数、勝てると思った時だけ襲い掛かってくるのである。
「よし。」
アルベールは音のする方に駆け出した。セリエとミリアムは駆け出すと同時に矢を番え、既にゴブリンに向かって射かけている。
ジョンの打ち合わせは単純だった。先ずゴブリンが村に入った所でジョンが囮となって盾を鳴らす。ゴブリンは習性的にジョンに狙いを定め、殺到してくる。
後はそれを横合いから切り飛ばしていけばいいのだ。ジョンは襲い掛かってくるゴブリンから距離を取り続ければそれでいい。
アルベールは切りかかろうかと思ったが、思い直して魔術を使う。セリエとミリアムが次々と矢を放っている中に突っ込んで行くのは躊躇われたからだ。
村の中なので火は使えない。彼が使ったのは風の刃を打ち出す魔術だ。
瞬く間にゴブリン達が倒れていく。妖精種は不思議なもので死体が残らない。死ぬと塵となって消えてしまうのだ。そして同じ個体なのかどうかは不明だが、またどこかでひょっこり現れる。迷惑な奴等だ。
「ウギッ・・・」
仲間が次々と倒されていくのを感じて残ったゴブリンが逃亡の動きを見せる。逃げる時、ゴブリンはまさに脱兎の如く駆ける。がむしゃらに森の中に走っていくのだ。夜の森の中ならば逃げ切る事が出来ると踏むのだ。
実際それは正しい。夜目の利くゴブリンと違って人間は夜の、しかも森の中を自在に走り回れはしない。こういった小知恵が更に憎々しい訳だが。
「逃がさないよ!」
森の中に駆け出すゴブリン達を追ってアルベール達も追撃をかける。こうなったゴブリンは逃げの一手で反撃をしてこない。こちらを撒こうとひたすら森を駆けるのだ。
「ライティング・ボール。」
追撃しつつ、アルベールは光の玉を空中に打ち上げていく。これは通常夜道などを照らすために使う魔術である。アルベールはゴブリンの走る先に何個も光の玉を打ち上げていく。
暗がりの森は明るく照らされた。こうなれば如何にゴブリンが逃げようと最早関係なかった。
多少森の深い所にまで入ってしまったものの、ゴブリンは無事全滅出来た。後は村に戻って村長に報告するだけだ。皆が一息ついた。
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