第14話王都を離れて
王都から北に三日ほどの位置にある村。それが今回の依頼の場所だ。森の傍に新規に開拓された村で、人の数もまだそれほどではない。こういった新しく拓かれた村は生活も豊かとは言えず、王国の援助があると言えども厳しいことに変わりはない。
そこに小規模とは言えゴブリンの群れが来るとあっては村人は気が気でないだろう。牛一頭、羊一匹といえども大切な財産だ。奪われてはたまったものではない。更にいるかどうかはともかくとしてレッドキャップの恐怖を合わせれば気の休まる暇も無いというものだ。
「とまぁ俺たちにとっちゃ楽な仕事でも、土地の人達にしてみりゃ大事件な訳よ。」
道中休憩に立ち寄った村の酒場でジョンが言う。目的地の村までは三分の二ほど進んだところである。この日はこの村で宿をとり、翌日目的の村に到着予定だ。
「まぁ家畜をしっかり小屋に入れて、戸締りしっかりしてりゃそうそう何か起こったりもしねぇんだがな。近場にそういう事をする奴らがうろついてるってのはいただけないわな。」
王都からは徒歩だったが、天気にも恵まれ順調に進むことが出来た。アルベールは野営を覚悟していたそうだが、基本的に人が一日で歩ける距離には制限があり、その制限に近い所に街や村、宿場町があるものである。
今回行く村は北のはずれ。その手前にある村が今アルベール達がいる村である。この国で最後に戦争があったのは実に五十年程前。それから今日に至るまでに人口は爆発的に上昇している。
新たな町や村が出来、人が流入する。北のはずれの村のほかにもそうした所が沢山あるのだ。
「移動の術は使えるのだが、近場ならともかくあまり遠くなると遠視の術の操作に難があってな。」
移動の術は目視した指定の地点に移動する術であるが、これに遠視の術を組み合わせる事によってある程度遠距離を移動することが出来る。
しかし遠視の術は術者の視点を遠方に飛ばす術なので、あまりにも遠くを見ると首の向きが少しずれただけで明後日の方向を向いてしまう。その上術を使用している間は周りが見えないので、不測の事態が起きて咄嗟に振り向いてしまったりすれば視界はとんでもない速度で動くだろう。
魔術は便利ではあるが万能ではない好例と言えるだろう。
「ま、焦っても仕方ないわ。明日は到着したらすぐに行動することになるでしょうし、今日の所はゆっくり休んで英気を養っておかないと。」
セリエが言う。ゴブリン達が悪さをするのは決まって夜だ。到着したら準備をし、待ち構える事になるだろう。そして数が減った所で、逃げだすゴブリンの残党を追撃して終わりだ。
強さも冒険者が相手では大したことも無い。日が暮れるたびに不安に駆られる村人には気の毒だが、到着までは我慢してもらう他ない。
「油断してレッドキャップに後ろから襲われでもしなきゃ余裕だよ。アルなら魔法で攻撃してもいい訳だしね。」
Cランクに上がったばかりの冒険者がゴブリンと対峙して犯しがちな間違いが、ゴブリンの強さを見て油断することである。ゴブリン自体の強さはDランクの冒険者でもどうにかなるものなのだ。しかし、それにつられて油断すれば、手痛い反撃を食らう羽目になる。
油断の代償は最悪その者の命だ。
「まぁどう動くかは明日移動中に打ち合わせるから、今日はとっとと寝ちまおう。向こうに着いたら少し休んでおきたいしな。」
夕飯を摂り、各々部屋に入って休む。アルベールは特に緊張したりすることも無く寝に入った。
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