第8話悪大人(ガキ)三人組
「予定は未定であり、決定ではない。しかし、予定ではどうか?」
王宮の一室で声がする。髭を蓄えた立派な大人が三人、立派な部屋で話し込んでいるようだ。
「二か月ほど、といった所か。いずれにせよ彼の言が無ければならぬがね。」
茶色の髭の男が言う。ゆったりとしたローブを着て傍らに大きく立派な杖を携えている。彼の名はエンゾ、宮廷魔術師だ。
「屋敷は二か月か、では彼が自ら口を開くのを待つとして、稽古の方はどうなる?」
金色の髭の男が言う。今は王冠を取り服も動きやすいそれに変わっているが、彼こそ国王フィリップ。アルベールの父親その人だ。
「鍛錬というものはいくら積んでも充分という事はない。魔術でもそれは同じ事だと思うが、今後は実践を視野に入れた稽古を始める。何、こと鍛錬というものは死にさえしなければいつでも積むことが出来るだろう。それこそ、冒険者になったとてもだ。」
黒色の髭の男が言う。腰に剣を帯びた彼の名はジャン・クロード・チャンドス。王宮近衛の隊長だ。
「私の方ももう後いくつか覚えて貰っておきたい魔術があるな。少しばかり難度が高いが、まぁ二か月あればアルベールなら覚えられるだろう。」
三者三様に笑みを浮かべて話している。内容は勿論アルベールについてだ。
「いやぁ、しかし冒険者か。30年前を思い出すな、エンゾ、チャンドス。」
「ドラゴン退治か、いやはや、若気の至りだな。よくもやれたもんだよ。」
「ドラゴン退治よりも、私は王宮の宝物庫にある剣やら杖やらを拝借した時の方がよっぽど心臓に悪かったがね。」
今はその杖も、剣も正式に彼らの元にある。
「まぁあのままじゃ未来の王妃が危なかったからなぁ。しかしそれにしても、あんな立派な装備で冒険者ってのは今更ながら無理があったよなぁ。」
「ドラゴンの断末魔がでかすぎたせいで心核を抜くのが精一杯だったのが悔やまれたな。婚姻関係にある他国の王子が未来の妻を助けに、なんてヒロイックな話で良いとは思うが、そうなると宝物庫から諸々拝借したのがばれてしまうからな。まぁばれても問題無かったんじゃないかと今だからこそ思うがな。」
「狂乱に陥ったドラゴンが何故真っ直ぐ王都に向かっていたのかは今では知るべくも無いが、心核の大きさからみるに若いドラゴンの様だったのが幸いした。年経たレッドドラゴンだったりしたら皆死んで終わりだったからな。」
しみじみと感慨にふける三人。若い頃の話で、その頃フィリップはまだ王子。城を抜け出しては冒険者ギルドに入り浸り、そこで知り合ったチャンドスやエンゾに混じって素性を隠して冒険者として活動していたのである。
「自分から言いに来るだろうか、アルベールは。」
フィリップは、ふと漏らす。アルベールは冒険者というものにいたく惹かれた様だった。であれば、なってみたいと思うのも当然であろうと思った。自分は国王にならなければならなかった、しかしアルベールは違う。なりたいなら、なればいいのだ。
「やりたそうだったんだろ?なら来るさ。アルベールはお前の息子だぞ、フィリップ。」
エンゾは確信しているかのように言う。昔のフィリップを見ているエンゾはむしろフィリップが何を心配しているのか分からない。
「冒険者ギルドでは稽古の時より数段生き生きしていた。あの楽しさは王宮では味わえないからな。」
稽古と比べるのはどうだろうかとフィリップとエンゾは思ったが、言わなかった。
「命を懸ける仕事だ、自分で決心して自分の口から言わねば始まらぬ。」
何はともあれアルベールの口から話が出なければ始まらないという事だった。しかし、ここにいる大人三人は極力アルベールの側に立つ気だった。
フィリップは勿論だが、幼い頃から成長を見てきたエンゾやチャンドスにとってもアルベールは息子の様なものだった。両人とも子供はいるがそれはそれとしてだ。
フィリップはやきもきしていた。フィリップも冒険者が好きだったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます