胸騒ぎ
「それではお気をつけて」
アリナはダンジョンのある場所へと繋がる、受付後方の出口から出発しようとしていたギルへ簡単に挨拶をした。
「な、なんか急に緊張してきました…」
「………。取り消しします?キャンセル料頂きますけど」
「いえっ、行きます!行ってきます!」
扉に手をかけ一度深呼吸をしたギルは、そのまま振り返ることなく前へと進んだ。
日が沈んだからだろうか。
それとも緊急クエストだからか。
何度も挑戦し続けているダンジョンのはずなのに、なぜか今晩に限って物々しさを覚えていた。
頬を強く叩いて気合を入れ直す。
腕輪型の電子機器を作動させ、歩きながら改めてクエストの内容を見直すことにした。
『統括本部緊急クエストNo.5454
処…永続回廊–第1階層–中腹部
対…一本黒以上
値…1000万R
伝…内密に行われる非合法集会の実態調査』
アリナさんの言っていた通り、本当に情報が少ない。そもそも調査と言ったって、一体何をすれば良いんだろう?
ダンジョン入口で立体映像を解除し、背負った剣をゆっくりと抜く。
ここから先は第1階層であろうと
「『
リラの与えた恩恵、『身体活性』は、その名の通りギルの身体能力を通常以上に高めるものだ。
握力、走力、跳躍力、腕力、脚力…。
あらゆる力が高められるのだが、逆を言ってしまえばそれだけで、さらに言うとギルはこの恩恵を100%で発揮したまま維持が出来ない。
恩恵に身体が付いて来られないのだ。
未完成の恩恵。リラは自分の未熟さからか、そんな表現を使っているが、ギルにとっては些細な問題である。
自分を助け、恩恵を与えてくれた。
生きる希望を与えてくれた、それだけで彼は十分だったのだ。
そんなリラに笑顔で報告するために、ギルは少し先で待ち受ける化物に剣を構えた。
その頃、仕事仲介所ではギルより先に一仕事終えた冒険者たちが、待合室で談笑をしたり、同じ
今では有名な結団に入るために腕を磨く冒険者もいるくらいで、レオリアで最強を謳われているのが、『
守護神には、『武装の守護神』の名を欲しいままにしているクラウディアがつき、恩恵を与えている。
ギルが戻るのを待ちながら事務仕事をしていたアリナは、近くのテーブルで話す3人の冒険者たちの話に耳を傾けていた。
「それにしてもさ、さっきのあれ、不気味だったよな」
「ん?いつの話だよ?」
「あー、あれだろ。ダンジョン行く前に中心区ですれ違った奴ら」
「あっ、あれか!なんか不気味な刺青入れた男たち。1人さ、なーんかやけにでけぇ荷物担いでたよな」
そこへ別のグループにいた冒険者が、「その刺青って、なんか真ん中に顔がある十字架?」と話に加わる。
「そーそー!あんまり、ちゃんと見なかったんだけどさ、なんていうかこう、腕と脚を捻って巻いて十字架にしてんのよ。真ん中の顔は花咥えてるし…」
「やっぱりな。オレらもそいつらとすれ違ったんだけど、なんかあの刺青の奴らには絶対関わらない方が良いらしいぜ?知り合いが聞いた話だと、エグい実験やってる宗教団体だって話で、守護神様を探してるんだと」
文字を打ち込むアリナの手が止まる。
「へぇ、どこの守護神様だよ?」
「えーっとな、名前は忘れちまったんだが、確か白髪の少年と2人で住んでるって話だったような…なんでもその守護神様が与えた恩恵は弱いらしいんだが、それは--」
「その刺青の男たちって、一体どこに向かったんですか?」
突然背後から声を掛けられ、男4人は思わず椅子を鳴らした。
「ど、どうしたんだよアリナちゃん」
「私のことは良いですから、その男たちが何処に向かったか教えてください」
4人は何事かと顔を見合わせたあと、全員が彼女の後ろ、つまり受付の方を指差した。
まさか…。
アリナは胸騒ぎがして、急ぎギルに連絡を取ろうと通信端末を起動する。
一定のリズムを刻むコール音は鳴り止むことがなく、一向に繋がる気配はない。
それでもアリナは自分の嫌な予感が的中していないことを祈り、ギルに連絡をし続けた。
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