第152話 兄の頑張り―珠side―
(うぅぅ……泣いてない……映画が思った以上に感動物で感動したからって涙なんて……流してないんだから……グスッ!)
「うぅぅ、良い話だったのです……。身分の差、世間体、誰からも祝福されない二人……ですが、二人は互いに愛し合い、最後の最後まで愛を貫き通して結ばれた……あの二人は幸せになれたのですね……グスグス……」
(……き、汚な! 涙と鼻水を垂らして号泣!? 大人の癖に……でも、周りからも鼻水をすする音が聞こえてくるし大人の方が感動したのかな……?
……って、そうこうしてる内にお兄ちゃんと高嶺お姉さんが……!)
「ほら、お姉ちゃん。いつまでも泣いてないで行くよ!」
「ふぇっ……す、少し待ってほしいのですぅぅぅ……ああぁぁぁ――」
(早く二人を追わないと見失っちゃう!)
「ひ、引っ張らないでほしいのですぅぅぅ――!」
「……公園まできて二人は何をするのでしょう?」
「知らないです。だから、こうやって見守ってるんじゃないですか」
「そうですね」
「静かにしてくださいよ。バレないように」
「わ、分かっているのです……!」
(映画館を出た後、二人はどこも寄らずにアリオヤを出た。そして、近くの公園まで歩いてきて……今はベンチに座りながら楽しそうに話してる。映画の感想でも言ってるのかな?
離れた所の木から隠れて見てるけど周りの子どもの声がうるさいのとちょっと遠くてよく聞こえないや……)
「珠ちゃん、二人が何を話しているか聞こえますか?」
「ううん、聞こえません」
「私もです」
「あ、お兄ちゃんが立った……っ!」
(あのお兄ちゃんが自分から高嶺お姉さんに向かって手を差し出してる!)
「お、思井くんめぇぇぇ~氷華に向かって……氷華に向かって手を差し出すなんて……」
「静かにしてください!」
「ひっ! そ、そんなに睨まないでほしいのです……ごめんなさい……」
(もう、今良いところなんだから黙っててよ! あのお兄ちゃんが自分から手を差し出したんだよ!? ちゃんと見届けないと! ……相手が高嶺お姉さんで悔しいけど!
お兄ちゃん恥ずかしそうに真っ赤になってる。高嶺お姉さんも頬を赤く染めながらお兄ちゃんの手を嬉しそうにとった)
「お兄ちゃん……頑張ったんだね」
「た、珠ちゃん。早く移動しないと二人を見失ってしま――」
「……もう、後をつけなくていいんじゃないですか?」
「えっ?」
「お姉さんもなんだかんだ言いながら二人が心配で後をつけてたんじゃないですか? 私はそうです」
「……っ!」
「その表情を見る限りやっぱりそうだったんですね」
「……そうなのです。私は心配でした。もう二人はラブラブですので心配する必要はないと内心では分かっているのです。ですが、やはり、どうしても心配で……」
「やっぱり、そうだったんですね。でも、大丈夫だと思いますよ。だって、見てください。二人のあの幸せそうな表情を。お互い好きって気持ちがぷんぷん出てます」
(お兄ちゃんと高嶺お姉さんは恥ずかしそうにしてる……でも、目が合う度に二人とも幸せそうに笑ってる。それが、私も嬉しい!)
「そう、ですね」
「それに、二人に何か問題があっても二人でどうにかしますよ。私達が口を挟むものではないです」
「うぅぅ、そう言われるとぐうの音も出ないのです……。でも、珠ちゃんの言う通りですね。珠ちゃんは私よりもずっと立派ですね」
「全然、立派じゃないですよ。だって、お兄ちゃんが大好きで高嶺お姉さんに嫉妬してるんですから。でも、まぁ、妹だから家に帰ればお兄ちゃんと仲良く出来るから良いんですけどね! 妹ポジションを譲る気はないですし!」
「ふふ、思井くんは良い妹さんがいて幸せですね」
「はい。お兄ちゃんは私がいて幸せなんです」
「ふふ、そろそろ帰りましょうか? 珠ちゃんもバスですよね?」
「はい」
「じゃ、一緒に帰りましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます