第151話 彼氏の妹と彼女の姉―珠side―

(……えっ、今高嶺お姉さんの名前を呼んだ!?)


「あの~もしかして、高嶺お姉さんの――」

「あの~もしかして、思井くんの――」


「――お姉さんですか!?」

「――妹さんですか!?」



「ご、ごめんなさい、高嶺お姉さんのお姉さん! 私、二人をじっと見てたからてっきり不審者さんなんだと……」


(サングラスを外してもらってまじまじと見たら……本当に高嶺お姉さんのお姉さんだった。お兄ちゃんのスマホで見た時に美人だから記憶に残ってるけど……一緒だ)


「い、いえ……私の方こそ手荒な真似をして……その、頭の可笑しな子だと思って申し訳ないのです……」


「私の方こそ……」


「私だって……」


(うわぁ~やっちゃった! この不審者さんが高嶺お姉さんのお姉さんだったなんて!

 とりあえず、売店からは出て二人で見つからないように椅子に座って謝ってるけど……どうしよう!? 変な子だって思われてる!)


「い、一旦謝るのやめませんか……?」


「わ、分かったのです!」


(……どうしよう、謝るのやめたらお互い何も言えなくなっちゃった。そ、そうだ。チケットのお礼を言わないと!)


「あの、チケット代……返します」


「い、いいのですよ。思井くんの妹さんなら……そ、それに、こう見えてもちゃんと働いているので!」


「……えっと、人の命を狙う裏の稼業で……ですか?」


「ち、違うのです! そんな物騒なこと出来ません!」


「……でも、その格好にお兄ちゃん達を見る目は……その、危ないと思いましたけど。そもそも、どうしてお兄ちゃん達の後をつけたりしてたんですか?」


「べ、別に二人の後をつけていたわけではないのです! た、たまたま用があったからここへ来たのです!」


「恋愛映画を一人で、ですか?」


「うっ……わ、私だって一緒に観たい相手くらいいるのです……」


(落ち込んじゃったし……訊いちゃダメだったのかな?)


「い、妹さんだってどうしてここに? 思井くんの後をつけてたんじゃないのですか? 似合わないサングラスなんかつけたりして……」


「わ、私はお兄ちゃんが高嶺お姉さんに失礼なことしないかと高嶺お姉さんがお兄ちゃんを悲しませないかを確認していたんです。そしたら、怪しい人を見つけたので警戒していたんですよ」


「お、思井くんが氷華を悲しませないかは分からないのです。何しろ、一度は悲しませたのですからね! ですが、氷華はそんなこと絶対にしないのです!

 わ、私は思井くんが氷華を悲しませたりしたら成敗するためにいるのです!」


「お兄ちゃんはそんなこと絶対にしないもん!」


「お子さまの妹さんには分からないでしょうが絶対なんてことはないのですよ!」


「むぅぅぅ~~~……って、お姉さんだって高嶺お姉さんのこと絶対って言ってる!」


「氷華は良いのです! 氷華は特別なのですから!」


(この人、本当に高嶺お姉さんのお姉さんなの!? 確かに、美人だけど高嶺お姉さんとは全然別人だよ!)


『そろそろ、入場時刻となりました。チケットをお持ちの方は――』


「あ、そろそろ始まるのですね。二人にバレないように先に入ってしまいましょう。えっと……」


「……珠」


「では、珠ちゃん。ここは珠ちゃんが言った通り姉妹としての設定でいくので私のことはお姉ちゃんだと思ってくれていいのですよ。私の名前は高嶺 水華なのです」


(ここは、大人しく従わないと中には入れそうにないから笑って答えよう)


「うん、水華お姉ちゃん!」


(……でも、なんだか苦手だし嫌いだから仲良くはしない。あくまでも表面上だけだから!)

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