第143話 友達でいないといけないんですか?―高嶺さんside―

(頭の中で二人の私が対立したまま、神社の方へと進んだ。そして、やっぱり、沢山の人がいてよく見えそうな場所は埋め尽くされていた。

 それでも、どこかに二人でよく見える場所はないかと辺りを探した。そして、見つけた。立ち入り禁止と書かれている場所を。

 立ち入り禁止と書かれているだけあって何か危険なのかな?

 けど、見る限り木々が広がっているだけで、工事などもしていないしどこも危なそうでなかった。


 私はまた謝りかけていた思井くんの手をとってその立ち入り禁止と書かれている奥へと進んだ。

 やっぱり、何も危険なものはなくて無事に木々を抜けて奥へと出ることが出来た。


 困惑している思井くんに私は謝りながら今だけは悪人になって下さいと言った。思井くんを悪人にするなんて……と、思ったけど花火を見るためには仕方がなかった。そ、それに、善人の思井くんが悪人になったことを想像すると……少し、胸がざわざわした。

 と、そんなことを考えていると花火が夜空に輝いた。ここからだと、本当に綺麗に見ることが出来て良かった。

 それに、何より……思井くんと一緒に花火を見れて、私はスゴく嬉しかった。


 私は夢中になりながら、次々と現れては消えていく花火を見ていた。

 凄く、綺麗……。

 そこは、まるで夢のような空間だった。幾つもの花火が彩る世界に私と思井くんの二人きり。理想で現実で幻想のようで……それでも、やっぱり、現実で――。


 隣を見れば思井くんがいる。隣には思井くんがいてくれる。私はチラッと思井くんの方を見た。本当は花火について話したかった。でも、夢中になっている思井くんの表情を見て――私の中で、何かがはち切れた。

 気づけば、私は思井くんの手を掴んでいた。ビックリして私を見てくれる思井くん。そんな思井くんを見上げながら私は伝えた。好きな人と一緒に花火を見れて嬉しいと。


 一瞬、目を丸くした思井くん。

 私は、頭の中で戦っていた二人のことなんかもう頭になかった。両方、諦めたくなかったから……両方を伝えた。

 いつまで思井くんの友達でいないといけないんですか?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る