第142話 思井くんの優しさは凄いこと

(女の子とそのお母さんが見えなくなってすぐに思井くんが謝ってきた。理由は分かってる。既に、周りには誰もいなく、今から花火を見に行っても、良い場所では見れないからだろう。それが、思井くんは申し訳なかったのだろう。

 でも、私は別に気にしていなかった。それどころか、思井くんの優しさを再確認出来て……あの日のことを思い返せて嬉しくもあったのだ。

 しかし、思井くんは自分の勝手な行動のせいで私に迷惑をかけたと思っている……そんなことあるはずがないのに。


 思井くんの優しさはあの二人を助けた。あの二人はきっとすごく助かったはずです、と伝えると思井くんはこう言った。思井くんがしているのは大層なものではなく、誰でも出来る。さっきだって、他の誰かがやったと――。

 私はその言葉を聞いて、自然と口調を強くしながら言っていた。思井くんじゃなきゃダメなんだと!


 思井くんがしているのは誰にでも出来ることではありません! 思井くんにしか出来ないことです!

 ……なのに、思井くんは自分の凄さに気づいていない。だから、私は思井くんの凄さを自覚させたかった。いい加減、思井くんが沢山の人を救っているのだと……私を救ってくれたのだと分かってほしかった……。


 私は思井くんの誰かに優しくしている姿が好き。

 だけど、それを直接言うのはまだ勇気がなくて言えなかった。だから、遠回しに……直接好きと伝えるよりも、思井くんに好きだと気づいてほしかった。


 でも、思井くんは私が優しさで励ましたのだと受け取った。

 私、結構際どいセリフを言ったはず……なんですけどね……。胸の奥がキュットします……って、好きに近い言葉だと思うんですが……。

 私が勘違いで受け取られガッカリしていると思井くんは違うのか訊いてきた。


 ここで、はい、違います。私は思井くんのことが好きなので彼女にしてください――と、言えたら良かった。だけど、それを言うと思井くんからの告白がなくなってしまう……。

 だから、私は笑って誤魔化した。

 そして、とりあえず向かいませんかと場所を移動することにした。


 思井くんを後ろに、私の頭の中では二人の私が戦っていた。

 思井くんからの告白を諦めて私から告白しようという私。思井くんからの告白を諦めないで、今日彼女になることを諦めようという私。

 決着をつけることは出来なかった。

 だって、どちらも諦めたくないんです! 私はどうしたらいいんですか!?)

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