第141話 迷子―高嶺さんside―

(声の主を見つけるのは案外すぐだった。ある場所だけ、人が動かないで塊を作っていたから。

 その中に今から入っていく。

 正直、怖い。さっき、思井くんとはぐれそうになったばかりだから……。でも、今は違う。私を心配してくれる思井くんと手を繋いでいる。それだけで、不安は消えた。


 思井くんが先陣をきって、人を掻き分けながら私が通りやすいようにしてくれた。

 そして、前に出て声の主を確認すると――小学生くらいの小さな女の子だった。女の子は大粒の涙を流して泣いていた。


 その女の子に思井くんは私の手を離して近づき、何があったのかを訊いていた。情けないことに、私は女の子と話している思井くんを見ながら少し落ち込んだ。

 思井くんの優しさが好き……だけど、こうも簡単に見ず知らずの子のために手を離されると悲しくなる……。

 もちろん、女の子に何があったのか心配した。けど、思井くんを盗られたような気分にもなった。


 あぁ、私はどうしてこんな気持ちに……思井くんは純粋な気持ちで女の子を助けてあげたいって思っているのに……私は他の誰かに任せて私だけをかまってほしいと――は!

 女の子の大きな泣き声に私は急いで首を横に振り、その気持ちを消した。その気持ちは思井くんの優しさを否定してしまうもの。私だってそれを望んでいる訳じゃない。ただ、もう少し私にもかまってほしいだけで――。

 私は決して、思井くんが嫌だと感じる気持ちを抱かないと決めて思井くんの元まで歩いた。


 女の子の状況を訊くと思井くんが迷子だと答えた。

 この子のお母さんはどこに……と言うか、この子も泣きすぎです。不安なのは分かります。私だってこの年でこんな場所で一人になれば泣くと思います。でも、いくらなんでも声が高過ぎです……耳が痛いです。

 私は女の子を傷つけないためにも笑っていようとした。でも、耳に届く甲高い声によって限界が近づいていた。困った。そんな時だった。突如、思井くんが咳払いをして女の子口調になりながら話始めた。


 私は思井くんのその行動の意味が分からなかった。だけど、思井くんがある言葉を言うと女の子はピタッと泣き止み、笑顔になって喜び始めた。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、思井くんのことを凄いと言う。思井くんの言葉には魔法でもかけられてるんですか?

 ある言葉とは――『プリっキュアレッド』。

 私にはそれが何か分からない。だけど、その言葉には聞き覚えがあった。私が思井くんに惹かれた時も口にしていた言葉だったからだ。

 私は、なんだかあの時の気持ちを思い返された気がした。

 そうだ……私は、あの少しも迷わないで他人を助けにいける思井くんに惹かれたんだ。だから、私は私だけに優しくしてくれる思井くんよりも、誰にでも優しく出来る思井くんの方が好き、なんだ……。

 そう思った……そう思い込ませた。これ以上、不潔な気持ちを抱かないためにも……。


 思井くんが女の子を肩車し、お母さんを探させた。すると、すぐに見つけることが出来た。

 焦っていたお母さんは思井くんに何度も頭を下げて感謝していた。そんなお母さんに思井くんは何も要求しないでただ感謝を言われているだけだった。

 そして、女の子とお母さんはどこかへ向かっていった)

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