第140話 不穏な声―高嶺さんside―
(……う~ん、思井くんは手を繋ぐことに勝者の権限を使って本当に良かったのでしょうか?
私は思井くんと手を繋いで歩いている間も一人悶々と考えていた。私なら欲望のままを思井くんに言うのに……思井くんは手を繋ぐだけなんて……。
そして、私はあることを思いついた。
これは、はぐれないための行為……本当なら、はぐれてしまった私から申し出ないといけないこと。だったら、思井くんにはまたいつかひとつ何か言ってもらいましょう!
そう言おうとして思井くんに話しかけると、思井くんもちょうど何かを言おうとしたらしくまたハモってしまった。
こうもハモるということは私と思井くんの相性はバッチリということですね!
私は思井くんとの相性を確認できたことが嬉しくて笑いながら今回は思井くんからと譲った。
すると、思井くんは宿題がどうなったかを訊いてきた。どうして、宿題? と、思ったけどあることを思い出した。夏休みが始まって思井くんと会えない日々は全然捗らなかった宿題。だけど、プールに行った日以降はスムーズに捗り、あっという間に終わらせてしまった。
私って案外簡単なタイプ、なんですかね……? だって、思井くんに会えたからやる気と力がみなぎって――。
そう考えると自分が単純だなと感じ、笑ってしまった。そして、終わったと答えた。
すると、思井くんはお疲れ様と言ってきてくれた。だから、私は思井くんのお陰だと言って感謝を伝えた。そしたら、思井くんは困惑したように頭の上にハテナマークを浮かべているようだった。
そんな思井くんが可愛くて、今理由を話せばどんな表情をしてくれるんだろう……と、少しイタズラ心が現れた私は伝えようとした。思井くんと会えたのが嬉しくて宿題なんて一瞬でやり終えました、と。
でも、その言葉はどこかから聞こえてきた謎の大きなわめき声によってかき消された。
な、なんだろう……?
不思議と少しばかりの恐怖が芽生えた。
思井くんもその声がなんなのかよく分かっていない様子だった。でも……それだとしても、思井くんは行こうとするはずだと直感した。
そして、案の定、思井くんは私に申し訳なさそうにしながらその声がする方へ向かおうとしていた。
私の心の中には二人の私がいた。
一人は、このまま一緒に花火を見たいからと思井くんを止める私。そして、もう一人の私は花火を見ることを諦めて思井くんについていく私だった。
私は迷わず後者を選んだ。
それは、後で後悔する選択かもしれない。だけど、違う。私が好きになった思井くんは誰にでも優しく出来る思井くんなのだ。
そんな、思井くんを好きだからこそ、私は後者を選んだのだ。
そして、私達は花火へ向かう列を抜け出して声の主を探し始めた)
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