第136話 ちっぽけ過ぎる命令
(思井くんから楽しかったね、と言われた私は少しだけイタズラしようと思った。わざと拗ねたような口調で思井くんを困らせた。
すると、思井くんはアタフタしながら謝ってきて……その姿が可愛くて、可笑しくて笑ってしまった。
私はイタズラだと謝りながら、素敵だったと伝えた。思井くんは少し恥ずかしそうにしながら、安心していた。
あぁ、楽しいなぁ……。
友達のままでも十分すぎるほど楽しい。
でも、彼女になったらもっと楽しいだろうな……。
でも、私は勝負に負けてしまった。落ち込んでいると、思井くんは言ってくれた。人には向き不向きがある、と。
じゃあ、輪投げや射的なら思井くんに勝てたのかな……? ううん、多分、どれでも勝てないや。
本気で楽しもうとしてなかった私じゃ、本気で楽しんでいた思井くんには勝てない。
もちろん、私だって本気だった。でも、思井くんの本気とは種類が違う。残念だけど納得するしかなかった。
後は、思井くんが私の理想通りのいうことを言ってくれれば――。
私は期待した。だけど、一瞬で打ち砕かれた。思井くんの命令は缶ジュースを一本、奢れとのことだった。
拍子抜けした。期待外れだった。思井くんには申し訳ないけど少し呆れた。本気というところが、可愛いのだけど呆れた。
いえ、分かってはいるんですよ!? 思井くんが私に負担がかからないようにしてくれていることは。ですが、あまりにもちっぽけ過ぎます!
思井くんは缶ジュース以外の命令を本気で悩んでいた。
私にしてほしいことはないということですか? 普通、こーいう時は己の欲望を思うがまま吐き出すものなんじゃないんですか? 私なら、思井くんに今すぐ告白してくださいと言います! 私のために! 私が幸せになるために! それとも、私の考えがずれてるんですか? 教えてください、偉い人!
そして、私はひとつの作戦を思い浮かべた。これで、上手くいくかは分からない。むしろ、余計に別の方向に傾くかもしれない。だけど、実行しようと決めた)
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