第130話 元気にしてくれました

(私は何を言われるのか怖かった。黙り続けた私に愛想を尽かし、もう終わりにしよう……そう言われても仕方がない。だけど、そんなのは嫌だ。何とか弁明を考えないと……。

 しかし、私が必死に頭を働かせていると思井くんは次の日曜日に予定がないかを訊いてきた。私は必死で首を縦に振った。

 すると、思井くんがお祭りに一緒に行かないかと誘ってきてくれた。

 絶対に行きたい……!

 そう思った私は声を絞り出して答えていた。行きたいです、と。

 そして、お祭りへ一緒に行く約束が決まった。

 私は勝手に傷ついていた心がスゴく癒されていく気がしてようやく思井くんをまともに見ることが出来た。そして、今まで黙っていたことを謝った。つまらない思いをさせて申し訳なかった、と。

 だけど、思井くんは私と一緒だから全然つまらなくなかったよと言ってくれた。私の心臓が大きく跳ね上がった気がした。


 やっぱり、思井くんは優しい……。

 だけど、思井くんはそんなことないと答える。けど、思井くんは本当に優しいのだ。ずっと、静かに私の隣にいてくれたのだから。

 そう言うと思井くんは当然だと言ってくれた。元気のない私を一人にしたくなかったと言ってくれた。

 あぁ、もう……素敵です……!

 自然と笑顔になっていくのが分かった。

 私は思井くんに元気をもらった。そして、思井くんの素敵さを改めて実感した。

 思井くんになら……全部、言っても大丈夫かな?

 そう思って、私はさらけ出した。全て、思井くんと近づきたくてやったことなのだと。でも、バカだったと。


 私は本当にバカだったのだ。

 遠回りなどせず、素直にいけば良かった。手を繋ぎたいなら繋いでほしいですと言えば良かった。抱きしめてほしいなら抱きしめてほしいですと言えば良かった。触れたいなら触れたいですと言えば良かったんだ。

 だけど、友達だから……そんなこと言えるはずがなく、姑息な作戦をとったせいで思井くんにこんなものを押しつけてしまって……傷ついて、落ち込んで、黙って……私、バカだ。せめて、もう少し大きく、思井くんをガッカリさせないようなものだったら――。


 私はまた落ち込みそうになった。

 すると、思井くんは全然ガッカリしなかったと。気持ち良かったと。私のお胸はこんなものじゃないから自信をもってくださいと励ましてくれた。真っ赤になりながら……。

 私は初めて自分のお胸がこの大きさで良かったと思えた。流石に、とても恥ずかしかったけど。

 私はどうして好きな人からお胸について自信をもってくださいと励まされているのでしょう?

 そう考えたらその場にいられないくらい変な気持ちが込み上げてきた。とにかく、消え去りたいと。

 だから、私はお祭りを楽しみにしていると伝え、さようならを言って急いで家の中に入った。


 私は玄関に入ると全身の力が抜けたようにその場にへたりこんだ。幸い、家にはまだ誰もいなかった。だから、私は誰にも気遣うことなく声を漏らすことが出来た。

 思井くん……好き、と――。

 そっと、胸に手を当てるとドキドキという大きな音が聞こえて鳴り止まなかった)

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