第129話 ドアドン―高嶺さんside―
(駅に向かう道中も電車に乗ってからも私は無言だった。私は後悔していた。思井くんともっと触れたいなどと勝手な欲望に走ったせいでこうなったのだと。手を繋いだだけで満足していたらああはならなかった。これは、きっと神様からの罰なんだと……。
電車の中はこんな時に限って混雑していて、自然にドアの側まで流された。思井くんは私が苦しくならないようにしっかりと向き合う形で守ってくれていた。
優しい。
何もなかったら、このまま触れたいと思っていたと思う。でも、さっきのことがあったから私は何も出来ないでいた。勝手に行動して、また思井くんに迷惑はかけられないと思ったから。
そんな時、電車が大きく揺れて思井くんの顔と手が私の顔のすぐ近くまで迫ってきた。私はドアのすぐ近くまで追いつめられ、思井くんは片手をドアにつけている。
こ、ここ、これって、壁ドン……ならぬ、ドアドンというやつですか!?
突然のドアドンに私はドキッとした。
プールで起こったように、再び近づく私と思井くんの唇の距離に私はもうどうにかなりそうだった。
こんな顔見せられない……!
私は俯いた。思井くんは急いで離れようとしていた。だけど、中々動けない様子だった。きっと、押し寄せてくる人の波が強すぎたのだろう。
でも、そんな状況でも私を守ろうと一生懸命な思井くんに惹かれた。私は俯いたまま、伝わるはずもないのに額だけを思井くんの身体にコツンと押し当てた。
これが、今出来る最大限の愛情表現……どうか、好きって気持ちが伝わるように……伝わってください……!
電車を降りて、また私は馬鹿なことをしたと落ち込んでいた。
結局、電車に乗っている間ずっと思井くんに額を当てていたなんて……絶対、変だと思われたはずです!
そして、あっという間に私の家に着いて別れる時がきた。別れの挨拶をして、自宅へと帰ろうとする思井くん。
このまま終わるなんて嫌だ……。でも、さようならさえ言えなかった私が何を言えばいいの……?
分からない。分からないから辛い。モヤモヤする。気持ちが悪い。もういっそのこと全部さらけ出して好きだと伝えたら――。
私は大きく唾を飲み込んだ。
だけど、去っていく思井くんの背中に向かって何も言えない。手も伸ばせない。私は――自分が嫌になる。
諦めて終わろうとした……その時だった。思井くんに呼び止められた)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます