第128話 ポロリしちゃった……―高嶺さんside―
(私は前に並んでいたカップルが抱き合うようにして滑っていくのを見ながら心踊らせていた。
私も後ろから思井くんにあんな風に……!
そして、興奮が冷めないまま私達の順番がやって来た。
係りのお姉さんが説明する時に思井くんのことを彼氏さんだと言った。
やっぱり、周りからはカップルに見えてるんだ……!
私はそれが嬉しかった。
でも、思井くんは友達だと訂正していた。それが、悲しかった。
思井くんは私が彼女だと迷惑なんだろうか……? ううん、多分違う。思井くんは私が迷惑してるんだと思ってるんだ。そんなことあるはずないのに……。
お姉さんに怒られている思井くんを助けるためにも私は言った。彼氏だと間違えられていても気にしない……堂々としてくれていいのだと。
それで、このまま本当の彼氏にしてください……とは言ってはくれないですよね……。言ってくれたら間髪入れずに返事、するんですけどね。はい、と。
お姉さんの説明が終わり、先ずは思井くんが私の腰に腕を回すことになった。
ふふふ、これも狙い通り。こうすれば、堂々と思井くんに抱きしめられている感覚になれる……!
だけど、思井くんは中々腕を回してこない。私は思井くんの手をとって誘導した。私の腰に思井くんの腕が回され、心臓が大きく跳ね上がった気がした。
だ、大胆だったかな……? で、でも、今さら後悔したって遅い……。思井くんともっと触れたいって思ったのは私なんだから……恥ずかしくても耐えないと……!
この時、私は少しだけ後悔していた。思井くんに触れられて嬉しいはずなのだけど、流石に凄く恥ずかしかったのだ。
思井くんの身体も硬直しているようで中々先へと進めなかった。
そんな私達をお姉さんはあしらうようにして座らせ滑る体勢にまで整えた。思井くんの股の間にスッポリと埋まった私は理性が崩壊しかけていたんだと思う。
もういっそのこと、早く滑らせて……!
そんなことを考えていると不意に背中に違和感を感じた。
だが、その瞬間私達は勢いよく滑り出していた。
滑る勢いは想像していたより随分と早く、私から言い出したのに怖くなって目を閉じていた。すると、全身が温かい感触に包まれた。思井くんが私を抱きしめてくれたのだ。私が怖い思いをしているからしてくれたのかは分からない。でも、私は嬉しくなって心の声をつい叫んでしまっていた。
途端に水の中に埋もれた私達。今の叫びを聞かれていないか不安になりつつ、水の中から顔を出すとある感覚が私を襲った。
なんだか、可笑しい……やけに、ある部分だけ水の感触を直に感じるような……。
そう思って視線を落とすと身体が一気に青ざめていった。
嘘……嘘……嘘嘘嘘嘘……!?
絶対にありはしないはずなのに水着が流され、私のお胸がコンニチハしていた。私は何も考えられなかった。突然のこと過ぎて両手で隠すという判断すら出来なかった。
そして、タイミング悪く思井くんが振り返ろうとしていた。冷静を失っていた私は咄嗟に思井くんの背中に抱きついてしまった。
今はまだ見られたくない……見られると恥ずかしくて死んじゃいます……!
私は自分の羞恥心しか考えていなかった。だから、思井くんがどう思うかなど考えもしなかった。思井くんは声を震わせていた。そこで、ようやく思井くんが迷惑していると気づいた。
こんな残念でぺったんなお胸を押しつけられても嬉しくないですよね……でも、私にもまだ覚悟が出来ていないんです……。それに、価値はなくても思井くん以外の人には絶対見られたくないんです……!
私は謝りながら思井くんを抱きしめる力をより一層強くした。そんな私に対し、思井くんは何も言わずに流された水着を発見して、そこまで誘導してくれた。
私は思井くんから水着を受け取ると急いで水の中でつけ直した。これで、一安心。
だけど、私の頭は真っ白で思井くんとどんな顔して何を話せばいいか分からず帰ろうとだけ口にした)
――係員お姉さんside――
(どうも、ウォータースライダーで説明をしている係員お姉さんです。名前は――まぁ、なんとでもお呼びください。
夏休み中、私は悲しいことに毎日ここでバイトしています。新しく出来たばかりで従業員が足らず、おまけに客は多いので高時給でばんばん稼がせてもらっています。……そろそろ彼氏が欲しいと思いながらです!
ウォータースライダーを滑りにくるのはカップルばかりでとても嫌です。目の前でイチャイチャする様を見せられる……生地獄です。
そんなある日のことでした。女の私でも見惚れてしまうほどの美少女とその彼氏のイケメン君が現れました。
うわぁ……理想のカップルだ……!
そう思いながら対応していた私は衝撃の事実を知りました。この二人、友達だと言うんです。しかし、そんなことありません。どこからどう見てもカップルです。私はケンカを売られているようでムカつきました!
だけど、中々カップルだと認めない彼氏さん。でも、彼女さんの方はどう見ても彼氏さんに惚れているようでした。モジモジとしている姿が愛らしく、素直に可愛いと思いました。
そこで、彼女さんのために私はあることを思いつきました。イチャイチャドキドキ作戦です。よく吊橋効果って聞きますよね。あれと同じです。
どうしようか悩みました。でも、答えなんてひとつしかありません。ポロリです。彼女さんがポロリすれば、彼氏さんも守らなければいけないという使命が生まれ、自然にイチャイチャするでしょう。
しかし、問題がありました。彼女さんはどう見てもポロリしません。はい、絶対にしません。だったら、どうしましょうか? 強制的に起こさせましょう!
私は滑り方の説明を端的かつ的確に伝え、早くイチャイチャさせるために実行するように言いました。
ですが、彼氏さんの方はジレジレしていて本当に友達かも? と思いました。
でも、友達同士の男女でウォータースライダーはあり得ません。どこまで仲良くなれば一緒に滑ろうとなりますか? 答えはカップルの仲です!
ジレップルの滑っていないのに新鮮なイチャイチャを見せられ、ムカッとした私はとっとと場を整えました。
そして、彼氏さんの耳元で囁いて二人を押し出しました。もちろん、彼女さんの水着の紐を緩めながら。
私、自分で言うのもなんですが手先が器用なんです。だから、片手でも水着の紐を緩めるのなんて簡単でした。
良かったですね、彼女さん。これで、絶対に起こり得ないポロリが起こりますよ。後は存分に二人の世界をお楽しみください。イチャイチャという世界を……最後に一言だけいいですか? 爆発してください!
そして、私は次のカップルに滑り方の説明を始めました)
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