第117話 高嶺さんの作戦

(夏休みが始まり、初日から私は落ち込んでいた。

 思井くんに会いたい……思井くんに会いたい……思井くんに会いたい……!

 昨日会ったばかりなのに、既に思井くんに会いたくて仕方がなかった。なのに、これから先、約二ヶ月の間、思井くんと会えない。辛い。夏休みなんてなくなればいいと思った。


 そんなある日のことだった。

 思井くんのことを考えながら、ポストに新聞を取りに行くと一枚のチラシが目に飛び込んできた。

 そのチラシには大きく隣町に大型プール施設開設と書かれていた。


 私はこれだ! と思った。

 ここに、思井くんと絶対に行きたい!

 だから、私はすぐにそのプールについて情報を集めた。プールは千円で屋内と屋外の両方で一日中遊べて、電車で五駅という比較的安くて近い良心的なものだった。

 ここで、思井くんと水着デートを……!

 そう考えただけで、私は楽しみでニヤニヤが止まらなかった。


 でも、私はバカだった。幾ら情報を集めても思井くんを誘う手段がなかったのだ。家まで行って誘えばいいけど、もしかしたら思井くんの迷惑になるかもしれない。そもそも、思井くんは私に会いたいとは思っていないかもしれない。そう考えたら妄想だけで楽しむしかなかった。

 終業式の日、どうして思井くんにラインメッセの交換を持ち掛けなかったのか……私は心底後悔した。こんなにも誰かの連絡先が欲しいと思うことは初めてだった。


 そして、後悔しながらも日は経過していった。去年まではすぐに終わらせていた宿題も今年は思井くんのことで頭がいっぱいで中々進ませることが出来なかった。

 そんな時だった。お姉ちゃんとママとパパの休暇が重なり、家族旅行が決まった。旅行先は色々だった。有名な場所を観光したり、温泉に入りに行ったり、旅館でゆっくりとしたり――どれも楽しかった。楽しかったけど……こーいうことを夏休み中に一回は思井くんと楽しみたいってやっぱり思ってしまった。


 どうやって思井くんを誘う……?

 旅行先でもずっとその事で頭がいっぱいだった。

 やっぱり、迷惑になるかもしれないけど家まで誘いに行こうかな? それとも、プールに行きたい趣旨と私のアドレスを書いた紙をポストに入れて返事を待ってみる? それとも、宿題で分からない箇所を教えてって嘘をつく?

 ううん、どれもダメだ。

 だって、迷惑はかけたくないし、ポストに入れに行くだけだと絶対に思井くんに会いたくなってしまう。それに、宿題だって思井くんより私の方が学力が上だから思井くんを馬鹿にしてるようで嫌だ。

 でも、じゃあどうしよう……? 諦めるしか、ないのかな――。


 そんな時だった。

 私の葛藤なんて知りもしないでお姉ちゃんは私の写真を夢中で沢山撮っていた。カシャカシャって音がうるさくて気が散るから怒ろうと思った。その時、ひとつの考えが浮かんだ。お姉ちゃんは抜け駆けして、私が欲しい思井くんのアカウントを持っている……だったら、利用するしかない、と――。


 家に帰ってから、私はお姉ちゃんに勝手に写真を撮ったんだから協力して。さもないと、お姉ちゃんとはしばらく話さない――と、半ば強制的に協力させた。

 お姉ちゃんのスマホの中には引くぐらいの私の写真が入っていた。その中から、私は思井くんに送ってもいいような写真を数枚選んだ。思井くんにはありのままの私を見てほしい。でも、どうせなら可愛いって思ってほしい。

 そうして、選んだ写真をお姉ちゃんに伝えて思井くんにメッセージを送ってもらった)

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