第114話 また明日

「あ……」


(無事に怒られもせず、高嶺さんの家まで送りに来れたけど……最後の最後に一番見られたくない人に――)


「お、お久しぶりです……水華さん」


「お姉ちゃん……」


(タイミング悪く、家から出てきた水華さんとばったり遭遇しちゃった……!

 水華さんとはラインメッセでやりとりはしたけど……土下座した以降会ってないし……何より――僕が高嶺さんをおんぶしてるところなんて見られたら――)


「ああ、氷華お帰りなさい。遅いので迎えに行こうかと……って、な、何をしているのですか!?」


(うん、やっぱり。知ってた。ぽかーん状態から急に迫ってくることなんて)


「い、いや、高嶺さんが足を痛めたので……」


「そ、そうではありません! とにかく、早く氷華を下ろすのです!」


「は、はい!

 高嶺さん、お、下ろすね……」


「は、はい。ありがとうございます、思井くん」


「氷華! 大丈夫ですか!?」


「う、うん、大丈夫だから。お姉ちゃん、心配しすぎ」


「心配するのです! だって、氷華は今し――」


「な、何を言おうとしてるの!?」


「むぐぐぐぐぐ……」


(なんだろう? 高嶺さんがここぞとばかりの早さで水華さんの口を塞いで――)


「く、苦しいのです、氷華……そ、それに、口を塞ぐなら手ではなく、その可愛くて柔らかそうな唇で……」


(いつも通りだな……。なんだか、水華さんを見てると気にしてることがバカじゃないかと思っちゃうよ……)


「あ、高嶺さん……足、ちゃんと冷やしてね。僕はそろそろ帰るよ」


「あ、思井くん待ってください」


「そうですそうです。早くお帰りなさい。ここから、氷華の看病は私がしますので!」


「お姉ちゃん!」


「そ、そんなに睨まないでほしいのです……」


「思井くん。写真、撮りませんか……? その、記念に欲しくて……」


(うっ! 上目遣いの高嶺さん……可愛い。それに、僕も欲しい。高嶺さんと恋人になれた記念日に――!)


「う、うん。撮ろっか」


「はい!

 お姉ちゃん。スマホ渡すから思井くんとの写真撮って」


「い、嫌なのです! 私だって氷華とのツーショット写真なんてなかなか撮れないのに……氷華と思井くんのツーショット写真を私が撮るなんて……生殺しなのです! 耐えられません!」


「じゃあ、いいよ。思井くん、こっちに寄ってくれますか? く、くっついて撮りましょう」


「ああああああっ! そ、それは、もっとダメなのです! 私の前でそんなことさせないのです!」


(水華さん一瞬で高嶺さんからスマホを奪っちゃった!?)


「うううう……嫌なのですが、氷華とくっつくなんて羨ましい体験を思井くんにさせるのも嫌なのです。だから、私が撮ります。早く並んでほしいのです」


「じゃあ、思井くん」


「うん」


「ううう、羨まし――っ!? ひょ、氷華……何をして――」


「た、高嶺さん!?」


(写真が撮れる瞬間、高嶺さんが僕の手を――)


「私、思井くんと手を繋いだ写真が欲しかったんです。お姉ちゃん、ちゃんと撮れた?」


「と、撮れてはいますが……思井くん、ズルいのです! 私だって……私だって、可愛い氷華とのツーショット写真……欲しいのです!」


「高嶺さん……水華さん、泣いちゃったよ……?」


「はい。私もここまでなるとは思いませんでした……。はぁ、お姉ちゃん。後で一緒に写真撮ろ?」


「え……い、いいのですか?」


「うん。それに、思井くんとの写真を撮ってくれてありがとう」


「うう、氷華~~~! 氷華の可愛い笑顔で言われたら撮って良かったと思ってしまうのです~~~!」


「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん。くっつかないで……って、お酒臭いよ。お姉ちゃん酔ってるの?」


「酔ってないのです! いつも氷華のことを可愛いと思っているのです!」


(それは、知ってるけど……よく見ると水華さんヘロヘロしてるし、完全に酔ってますよね)


「すいません、思井くん。最後にお見苦しいものをお見せして……」


「う、ううん。それより、早く水華さんを家にいれてあげた方がいいんじゃないかな?」


「そうですね」


「えへへ~氷華~~」


「それでは、思井くん――今日は誘ってくれてありがとうございました。とっても楽しかったです!」


「うん、僕も。ありがとう高嶺さん」


「そ、それに、か、彼女にしてくれてあ、ありがとうございます。とっても、嬉しくて幸せです……!」


「う、うん……僕もだよ。彼女になってくれてありがとう……! その、これからもよろしくね」


「は、はい。……なんだか、照れくさいですね。また、明日。さようなら」


「うん、バイバイ……」

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