第109話 他人に優しく出来るのは凄いこと
「少し目を離した隙にどこかへ行ってしまい……本当になんとお礼を言ったら……ありがとうございます。ありがとうございます」
「い、いえいえ。顔を上げてください」
(案外、すぐに見つかってくれて良かった。これで、見つからないまま警察まで迷子を届けに行ったりして母親とすれ違ったりしてたら嫌だもんね)
「あの、何かお礼を……」
「そ、そんなつもりで助けた訳じゃないので大丈夫です」
「ですが……」
「気にしないでください」
「そ、そうですか……? その、本当にありがとうございます! ほら、ちゃんとお礼を言いなさい!」
「ありがとーーー、プリッキュアレッドーー!」
「こ、こら。失礼でしょ! 本当にすいません……では、私達はこれで――」
「バイバーーイ、プリッキュアレッドーー!」
「うん、バイバイ。もう、勝手に動いてお母さんを心配させたらダメだよ」
「ぶ、無事に再会出来て良かったですね」
「うん。
あ、そ、そうだ。ゴメンね、高嶺さん。僕の勝手に付き合わせちゃって……。多分、もう今から行っても見易い場所はないかも……」
(あの子が母親を見つけた途端、周囲にいた人達は安心したのかすぐに行ってしまった。もう、ここらには人なんて全然いない)
「いえ、いいんです。思井くんの優しさを再確認出来ましたから」
(……あれ、気のせい、かもしれないけど……高嶺さん嬉しそう?
いや、そんなはずないよね。だって、せっかくの花火なのによく見えないかもしれないんだもん……嬉しくしてるはずがないよ)
「でも、僕があの子を助けてあげたいって思っちゃったせいで高嶺さんに迷惑を……」
「そんな、迷惑だなんて……。思井くんの優しさはあの子と母親を助けたじゃないですか。きっと、二人は思井くんの優しさにとても助かったんだと思いますよ」
「ううん、僕がしてるのなんてそんな大層なものじゃないよ。僕じゃなくたって誰でも出来る。さっきだってきっと、僕がやらなくても誰かが――」
「思井くんじゃなきゃダメなんです!」
「高嶺さん……?」
「思井くんがしてるのは誰にでも出来ることではありません。思井くんにしか出来ないことです。さっきだって、誰かあの子に声をかけに行こうとしていましたか? していなかったはずです。思井くん以外……私だって躊躇っていました。でも、思井くんだけは迷うことなくあの子に歩みよりました。それが、どれだけ凄いことか分かりますか?」
「高嶺さん……急にどうしたの?」
「思井くんが自分の凄さに気づいていないから教えてあげてるんです! あの子も母親も思井くんの優しさに救われたんです!」
「……っ!」
「私、思井くんの誰かに優しくしている姿を見ると胸の奥がキュットします。だから、もしこれで花火が良いように見えなくても迷惑だなんて思わないでください!」
(……っ、泣いちゃいそう。僕、今まで誰かに優しくしてきて、その度にお礼を言われたけど……そのどんな言葉より、今高嶺さんが言ってくれた言葉の方が嬉しくてたまらない。泣いちゃいそうだよ……!)
「ありがとう、高嶺さん……。高嶺さんもやっぱり、優しいね。こんなにも励ましてくれるなんて」
「励まし、ですか……」
「えっ、ち、違うの……?」
(僕の勝手な思い込みですか!?)
「ふふ……思井くん。とりあえず、向かいませんか? まだ、どこか空いてる場所があるかもしれませんし」
「う、うん。そうだね……」
(話、逸らされた!? 高嶺さんはいったいどういう意味で言ってくれたの? 励まし? それとも、何か別の……? 気になります!)
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