第108話 迷子

(声がどこから聞こえてきたのかはすぐに分かった。周りの人達がザワザワしながら、塊を作っていたから)


「転けないように気をつけてね高嶺さん」


(僕は今からこの人の塊をかき分けていかないといけない……。下駄を履いている高嶺さんには十分気をつけてもらわないと)


「はい」


「すいません、通してください!

 ……ック、進み、にく……っと」


(ふぅ、ようやく前に来られた……。高嶺さんは――良かった。ちゃんと抜けれたんだね。

 声の正体は――女の子……)


「びえぇぇぇぇん!」


(うわっ、スゴく泣いてる……見た感じ、周りに誰もいないのかな?

 ゴメン、高嶺さん――)


「ねぇ、どうしたの?」


(……僕ってバカだな。せっかく、高嶺さんが手を繋いでくれていたのに、見ず知らずの子のために自分から手放すなんて……。でも、やっぱり、僕は困ってる人を見逃せないんだよね……)


「びえぇぇぇぇん!」


「泣かないで。何があったのか、教えてくれる?」


「ママァァァァァ!」


「お母さんとはぐれちゃったの?」


「うわぁぁぁぁぁん!」


「お、思井くん……この子は」


「うん、どうやら迷子みたい」


「びえぇぇぇぇん!!!」


(……っ、声が大きすぎる。これだけ大きかったら母親は気づくかもしれないけど……辺りにそれらしき人はいないし……)


「びえぇぇぇぇん!!!」


(……っ、高嶺さんの前でこれをやるのは恥ずかしいけど……しょうがないよね。これ以上、大声をあげられると高嶺さんの耳もキツそうだし……)


「ん、んん……ほ、ほら、もう泣くのはやめなさい!」


「びえぇぇ――」


「お、思井くん……? いったいなにを……」


「この、プリッキュアレッドがあなたのお母さんを探してあげるから! 元気を出しなさい!」


(……~~~っ、あああああ恥ずかしいぃぃぃ! ほら、高嶺さんもこの子もキョトンとしてるし……あれ? でも、この状況……どこかであった気も……確か、ちょうど一年くらい前にも……)


「ふぁぁぁぁぁ、プリッキュアレッドだぁぁ! プリッキュアレッド! プリッキュアレッド!」


「え、ええ、そうよ。私の名前はプリッキュアレッド。愛と正義の味方よ!」


「キャハハハハ、お兄ちゃん凄ーーーい!」


(ふぅ、なんとか泣き止んでくれた。やっぱり、プリッキュアって侮れない!

 よ~し、あとは――)


「ぐぬぬぬぬ……ど、どうかしら? そこから、お母さんの姿は見える?」


「ええっと~~~」


(み、見た感じ、小学三年生くらいだけど、肩車するとスゴく首にくる! ダイエットしてからはだいぶ力も落ちたような気がするし……は、早く見つけてぇぇぇ!)


「……あ、いた。ママァァ!」

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