第106話 はぐれないように
(流石、結構人気なだけあって花火となると人が一段と多くなって……)
「た、高嶺さん……大丈夫?」
「は、はい……思井くんの後ろを歩かせてもらっているので多少は――キャッ……!」
(皆さん、花火を良い場所で見たくて肩をぶつけあってる……高嶺さんも誰かに当てられたしこのままじゃ……いつか、はぐれる――)
「た、高嶺さ――っ!」
(高嶺さんがいない!? もう遅かった!?
ううん、まだ、そんなに離れてはいないはず……大きな声を出せばきっと――)
「た、高嶺さ――」
(こっちに向かって不用意に伸びてる手……た、高嶺さんですか!?
……っ、もし、高嶺さんじゃなくて他の人だったら……って、考えてる場合じゃない!)
「――お、思井くん!」
「た、高嶺さん……良かった……!」
(手を掴んでこっちに引っ張っちゃったけど高嶺さんで良かった……!)
「……あ、あの、思井くん……その、恥ずかしい、です……」
「あ、ご、ゴメン!」
「………………」
(~~~っ、無理に引っ張っちゃったから出てきた高嶺さんを受け止める形になっちゃった……。周りから見れば、抱きついているように見えた、よね……。高嶺さんも赤くなりながら俯いちゃったし……)
「お、思井くん……助けてくれて、ありがとうございます……」
「う、うん。その、なんかゴメンね?」
「い、いえ……い、行きましょうか。早くしないと場所もなくなっちゃいますし――」
「た、高嶺さん。待って」
「……っ、ど、どうしたんですか? いきなり手を繋いだりして……」
「あの……さっきの勝負のやつなんだけど、思いついたからいいかな?」
「い、今ですか? 私はいいですけど……」
「僕が高嶺さんにしてほしいことは……こ、このまま、手を繋いでいてほしいです。その、はぐれないためにも……ダメかな?」
「……っ、そ、そんなことでいいんですか?」
「うん」
(だって、高嶺さんと手を繋ぐには理由がないといけないから。それに、一瞬でも高嶺さんに不安を与えちゃったのは僕の失態……だから、僕は僕が嬉しくなるようなことを高嶺さんにしてもらうより、高嶺さんを守るために高嶺さんにこうしていてほしい)
「……っ、わ、私はいいですよ。しかし、本当にこんなことでいいんですか? て、手を繋ぐくらい……思井くんが求めてくれたらいつでも――」
「皆さーん。押さないでくださーい! 時間はまだあります。なので、ゆっくりと譲り合って移動してください!」
「じゃ、じゃあ、行こっか。はぐれないように、ね」
「……はい」
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