第96話 元気になってくれるなら
「高嶺さん、またね……」
(結局、電車を降りて高嶺さんを家まで送る途中も高嶺さんはずっと黙ったまま俯いてた。何か言いたいけど、なんて声をかけたらいいのか分からない……。
このままでいいのかな?
ううん、ダメに決まってる! こんな最後じゃダメだ!)
「あの、高嶺さん。今週の日曜日、空いてますか?」
(高嶺さん……コクコクって頷いて、返事してくれて――。
言え。言うんだ、僕)
「夏休み最終日なんだけど、その日お祭りがあるじゃないですか。僕と……い、一緒に行ってくれませんか!?」
(珠とアリオヤに行った帰り道、バスの中から見つけた町内案内ポスター。そこには、夏祭り開催の文字が大きく書かれていたんだ。それを見た瞬間から、僕は高嶺さんを誘うと決めていたんだ。
こんなことで高嶺さんが元気になってくれるかは分からない……。でも、僕は高嶺さんが悲しんだまま今日を終わらせたくない!)
「……い、行きたい、です……」
「じゃあ、行こう!」
「……はい!」
(高嶺さん……ちょっとは元気になってくれたかな? ようやく、僕のことを見てくれたけど……)
「……すいません、思井くん。私、最後はずっと黙ったままで……。一緒にいてつまらなかったですよね……?」
「ううん、僕は高嶺さんと一緒だったから全然つまらなくなんてなかったよ!」
「ありがとう、ございます……。やっぱり、思井くんは優しいですね……」
「そ、そんなことないよ」
「いいえ、優しいです。私が黙っているのに思井くんは静かに隣にいてくれたんですから」
「そんなの当然だよ。僕は元気のない高嶺さんを一人にしたくなかったから。
……って、こんなのバカだよね。あはは」
(は、恥ずかしいぃぃぃ~。でも、僕が高嶺さんを一人にしたくなかったのは本当のこと。僕が何かすることで高嶺さんが元気になれるなら僕は――)
「……本当、そういう所ですよ……」
「えっ……」
「思井くん、ずっと黙ったままですいませんでした」
(きゅ、急に高嶺さんが笑顔に!? 僕、何かしたっけ!?)
「私、バカだったんです。もっと、思井くんとち、近づきたい……とか、そんなことを考えたせいで結局、あんなことになってしまって。しかも、自分で突っ走ったのに自分で落ち込んで……私、バカですよね」
(……えっ!? って、ことは僕とウォータースライダーを滑りたいって言ってくれたのは僕とく、くっつきたかったから……って、ことですか!?)
「あの、高嶺さん……」
「思井くんと手を繋げただけで満足しておけば良いものの……もっともっとって欲が出てしまったせいで……。お、思井くんにこんなものをくっつけてしまって……」
(……っ、高嶺さん。胸に視線を落とさないでください……。まだ、背中にあの時の感触が残っていて変な気分に――)
「お、思井くんもが、ガッカリしましたよね……」
「う、ううん、ガッカリだなんてそんな……。その、こんなこと言うと気持ち悪いと思うけど……と、とても、気持ち良かったので……その、じ、自信もってください。た、高嶺さんのお、お胸はこんなもの……なんかじゃないですから!」
(~~~っ、僕はアホか! 何を正直に言っちゃってるんだよ! こんなのまるで変態じゃないか!)
「~~~っ、そ、そそ、そうですか? じゃ、じゃあ、また日曜日、お祭りの日に。さ、さようなら……!」
「う、うん……!」
(高嶺さん……真っ赤になりながら、急いで家の中に……。や、やっぱり、気持ち悪いって思われたよね……)
「はぁ……僕も帰ろ……」
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