第91話 写真
「高嶺さん、たこ焼きにしたんだね」
「はい。思井くんはフランクフルトですね」
「うん。さっと食べれそうだから」
「そうですね。食べたら、流れるプールに入りましょうね」
「うん。ここから、見てるだけでも楽しそうだもんね」
(ちょうど、階段みたいな造りの石で出来たベンチから眺めてるけど……皆、笑ってる。僕も早く入りたいよ。流れるプールなら、浮かんでるだけで勝手に進んでくれるしね)
「思井くん。思井くんもパーカー持ってきていたんですね」
「うん。なんでか、珠から持っていくように言われたんだ」
「私もです。お姉ちゃんから水に入る時以外は必ず着ていなさいと強く言われまして」
「へ、へぇー、そうなんだ」
(珠が裸体を晒すのは危険って言ってたの……意味が分かってなかったけど、ようやく分かったよ。確かに、高嶺さんが肌を晒してるって想像したら周りの男の人が変な目で見るに決まってるもんね……プールって楽しい場所だけじゃなく戦場なんだ!)
「高嶺さんのパーカー姿も似合ってるね」
(高嶺さんが着てるのは薄いピンク色のパーカー。ちゃんと、ファスナーで隠されているのに、なんでか、パーカー姿の高嶺さんの方が妙に艶かしいというか……。あれかな? 水でピッタリと張りついて、高嶺さんの肌がパーカー越しにも見えちゃうからなのかな?)
「……っ、あ、ありがとう、ございます……」
(……って、ダメダメ。僕にはそんなこと考えてる暇がないんだ。僕にはやらなきゃいけないことがある。パーカーを買った時におまけで貰ったこの防水カバンの中に入れてあるスマホで高嶺さんと――ラインメッセの交換をするんだ! もう、連絡が出来ないのは嫌だもんね!
よし、言うぞ。僕とラインメッセの交換をしてください……! 僕とラインメッセの交換を――)
「た、高嶺さん!」
「お、思井くん!」
(……っ、はもった!?)
「あ、な、何……?」
「い、いえ、思井くんの方こそ何か……?」
「う、ううん。こーいう時は、レディーファーストだから高嶺さんから」
「で、ではですね……っ、わ、私と思い出にしゃ、写真を撮ってくれませんか!?」
「写真!?」
(何それ! 僕も欲しい! けど――)
「僕も高嶺さんとの写真は欲しいけど……ここで撮るの?」
「はい! スマホ持ってきていますから!」
(あ、高嶺さんも僕と似たような防水カバンの中にスマホいれてたんだ)
「でも、そのみ、水着な訳だし……」
「? プールですから、当然ですよ?」
「そうなんだけどね……」
(高嶺さんの水着姿の写真……流出なんてしたら、全人類が淫らなことに使うに決まってる! その事を、分かっていますか!?)
「そ、それでですね……写真を共有したいので、思井くんのら、らい……ラインメッセのアカウントが欲しいんです! 私と交換してください!」
(……っ、先を越されちゃった……それは、僕から言いたかったんだけど……。でも、高嶺さんも同じこと考えてくれてたんだ……嬉しい……)
「う、うん。交換しよっか」
「じゃ、じゃあ、写真、撮りましょう。笑ってください。ぴ、ピース、です。
ぶ、無事に撮れました!」
(大丈夫かな? 僕、ちゃんと笑えたかな? 高嶺さんと写真なんて緊張して――)
「あ、あの、思井くん……こ、交換ですが……」
「そ、そうだね。ふ、ふりふりでもする?」
「は、はい。ふりふりします」
「じゃ、ふりふり」
「き、きました。友達追加、押しますね」
「こっちもきたよ、高嶺さん。これで、繋がったね」
「はい。じゃ、じゃあ、写真送りますね」
「うん。お願い」
(……良かった。なんとか、僕笑えてたみたい。それにしても、高嶺さんは写真写りも良くて、画面の向こうでも相変わらず可愛い。に、比べて僕は……なんとか、笑うことが精一杯で……。
ま、いっか。高嶺さん、嬉しそうにしてるし)
「あ、思井くんが言おうとしていたことって……」
「あ~うん。僕も高嶺さんと一緒だよ。高嶺さんとラインメッセの交換がしたくてさ……」
「そ、そうだったんですね。そうとは知らずに先に言ってしまって……でも、思井くんと同じ気持ちだったこと……嬉しいです」
「う、うん。僕も嬉しいよ……!」
(~~~っ、高嶺さんも恥ずかしがってるけど、僕もめちゃくちゃ恥ずかしい……!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます