第90話 怒るよりドキドキ

「お、思井くん……戻りましょうか……」


「うん……」


(僕と高嶺さんは何か食べるためにお金を取りに更衣室まで戻って、また一緒に屋内プールに向かう最中だけど……気まずい……。なんだか、高嶺さんずっと下を向いたままだし返事も曖昧で……やっぱり、怒ってるんだよね……)


「高嶺さん……さっきは、ゴメンね。あんな風になっちゃって……怒ってるよね……?」


(友達の僕といきなり唇が触れそうになるなんて……怒るに決まってるよ……!)


「……いえ、怒っていません」


「嘘、だよね。だって、ずっと下を向いたままだし……」


「ち、違うんです。私、本当に思井くんに怒ってなんか……ただ、ドキドキし過ぎて……思井くんの顔を見ることが出来なかっただけなんです……」


「ドキドキって……高嶺さん、怒るのが普通なんですよ。いきなり、唇を奪われそうになったんだから」


(そうだよ……僕が高嶺さんに土下座しなくちゃいけないほどのことをしたんだから、高嶺さんは怒るべきなんですよ!)


「そ、そんなの……お、思井くん以外の人なら怒ります!

 ……でも、相手が思井くんだから……~~~っ、と、とにかく、私は怒ってませんので、そんなに気にしないでください!」


「でも……」


「ぎゃ、逆に、これ以上思井くんが気にする方が私は気分が悪いです。私は未遂じゃなくても全然大丈夫でしたので、分かりましたか!?」


(高嶺さん……真っ赤になりながらも、キッとした強い目で……その目で見つめられたら僕は――)


「……うん、分かったよ。高嶺さん」


「分かってくれたらいいんです。さ、行きましょう」


(――あぁ、どんどん高嶺さんを独占したい欲求が僕の中を埋めていく気がする)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る