第85話 直視出来ない

「ふぅ……思井くん、大丈夫でしたか?」


「う、うん……その、ありがとう。情けなくてゴメンね……」


(うぅぅ、僕は本当に情けない。谷間が大きくて初対面の人だからって強く言えないなんて……それに、高嶺さんにまで迷惑をかけて……)


「いえ、きっと、思井くんは優しいから彼女達のことを気遣って断れなかったんですよね」


「いや、うん……」


(どうしよう……目が怖くて強く言えなかったなんて言えない……!)


「え、なんですかその曖昧な返事は……まさか、彼女達のむ、むむ、お胸が大きくて断れなかった……なんて、言わないでくださいよ!?」


「ち、違うよ! ただ、目が怖くて……強く言えなかったんだ……。友達と一緒だから無理だって言ったんだけど聞いてくれなくて……」


「友達、ですか……。ま、まぁ、思井くんが彼女達のお胸に惑わされないで良かったです」


「あははははは~……」


「ところで、どうして先ほどから目を合わせてくれないんですか? ずっと、そっぽを向いたままで……どこか、気分でも悪いですか?」


「いや! そんなことないよ! 元気元気!」


「そうですか……? じゃあ、どうして……?」


「……っ、あまりにも高嶺さんの水着姿が可愛くて……どうしたらいいか、分からないからです……」


(高嶺さんの水着はピンク色で白の水玉模様が沢山埋められたふりふりと揺れる――確か、フリルデザインって言われてるやつだよね。昨日、散々、珠から事前にどんな種類の水着があるか調べとくべき、って言われたから調べておいたけど……そんな名前だったはず。

 それに、いつもなら隠れている素足も出ててスラッと細くて綺麗だし。足首に結ばれているお揃いのミサンガが僕の心をくすぐって……。

 髪だって、いつもは何もしないストレートなのに、今はシュシュでサイドテールにされてて……新鮮。

 全てにおいて可愛いすぎる高嶺さんをずっと見てたら倒れちゃいそうな気がする……直視出来ない……!)


「……そ、そんなこと言われると私だって恥ずかしくなっちゃいます……」


「……っ、だ、だよね……ゴメン……」


(そうだよ……高嶺さんを恥ずかしくさせちゃダメだよ。僕がこんなんだから、高嶺さんも赤くなりながら俯いちゃったし……このままじゃ、ダメだよね!

 せっかく、楽しむために来たんだから楽しまないと)


「た、高嶺さん!」


「はい……?」


「い、行こっか。ずっと、ここにいるのもなんだしね……」


「……やっと、こっちを向いてくれましたね……」


(高嶺さんの水着姿を変に意識しないってことは絶対に無理……だから、変に意識するのを上書きするように楽しむ!)


「い、行きましょうか……!」


(高嶺さんにも楽しんでもらえるようにしないと……!)


「うん」

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