第73話【エピローグ】続・高嶺さんが恋に落ちた日
(気づいたら、私は彼のことを自然と目で追うようになっていた。通学の途中、たまたま彼を見つけたら見てしまう。廊下ですれ違う時も、ついつい目で追ってしまっていた。合同授業の際も、私は先生より彼のことを見つめていた。
彼は、私と同じでいつも一人だった。見るところ、友達らしき人は誰もいなさそうで、いつも一人で行動していた。
そんな姿を見ていたから、余計に声をかけたくなった。私と彼は互いに一人だったから、友達からなりたかった。
しかし、そんなことを思っているだけでは何も変わらない。そんなこと、分かってはいるけど、やっぱり、何かを変えることは出来なかった。
彼への想いが一方的に強くなりながら一年が経った。
始業式の日、校舎の掲示板に貼り出された写真つきクラス名簿を見て、私は嬉しくて仕方がなかった。なんと、彼と同じクラスになれたのだ。私は嬉しさのあまり神様からのプレゼントかと思った。
そして、二年生が始まった。
そこで、私はようやく彼の名前を知ることが出来た。彼の名前は思井 立衣――というらしい。素敵な名前だと思った。
私はなんとか思井くんと話そうと思い、先ずは他の人と仲良くなると決めた。一人ずつ話していけば、クラスメイトなのだから自然に思井くんとも話すことになる……そう考えたから。
しかし、その作戦は数人で終わらされることになった。どれだけ、私が話しかけても何故か、男子の皆は避ける。女子の皆は困ったような顔をした。そして、私が話しかけられることはなかった。
そこで、私はようやく理解した。
私に友達が出来ないのは避けられているからなのだと……。
そんな、私が思井くんに話しかけたら迷惑かもしれない。そう思った私は益々自分から声をかけられなくなった。そして、思井くんから話しかけられることもなかった。
せっかく、同じクラスになれたのに私も思井くんも去年と同じ、一人だった。
自分から話しかけるのは無理だと諦めたその日から私は思井くんから話しかけられることだけを期待した。他の誰かからはどうでもいい。ただ、思井くんからだけは話しかけてほしかった……おはようっていう挨拶だけでもいいからほしかった。
だけど、避けられている私にそんなことあるはずがなかった。
そんな感じで二ヶ月以上が経ったある日のことだった。今日も思井くんと話せなかったとガッカリしながら帰ろうとしていた私は下駄箱を開けて目を丸くした。一通の手紙が入っていたのだ。差出人不明のその手紙には、『放課後、校舎裏に来てください』とだけ書かれていた。
私は不安だった。誰かも分からないのだ。怖かった。だから、とりあえず一目だけ見て、知らない人なら逃げようと思いながら校舎裏に向かった。
そして、私を待っていた人に私は息が止まるかと思った。
私を待っていたのは思井くんだった。
私はついに思井くんと話せると思って、舞い上がりそうになった。だけど、いきなり興奮している女子など気味悪がられるに違いない。だから、私は冷静を装って、思井くんなどただのクラスメイトの一人として対応した。
思井くんは真剣な表情をしていて、私と初めて声を交わした。
私は何を言われるのか少し怖かった。
いつも、見ていることが気づかれて気持ち悪いと言われるかも……そう考えると足が震えた。
だけど、思井くんが言ってくれたのはそんな私が傷つく言葉じゃなかった。
『好きです。付き合ってください』と……。
それは、私が夢にまで見た言葉だった。
私はそういうのはもっと関係を深めてから……そう考えていたけど、何より思井くんが私と同じ気持ちだったことに舞い上がってしまった。
私が冷静を欠けさせながら、放心していると思井くんは心配してくれた。
そんな思井くんをやっぱり、優しいなと感じながら私も応えた。付き合おうと……!
私は思井くんと付き合えたことが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。だから、自分でも信じられないくらい積極的になっていた。
思井くんと一緒にお昼や登下校を共にし、家にまで誘った。思井くんが熱だと聞いた時は凄く心配した。迷惑かと思ったけど家にまで押しかけて看病した。あまり、積極的過ぎると引かれるとも考えたが身体が勝手に動いていた。
思井くんからデートに誘われた時には本当に嬉しかった。
だから、思井くんは私のことを好きでないと知った時は本当に悲しかった。
だけど、ケンカ別れして思井くんと会えなくなって、会えない日がこんなにも苦しいのだと知った。毎日が辛くて長くて息苦しかった。なんとか、仲直りがしたかった。
すると、思井くんは皆の前で自分の気持ちを打ち明けてくれた。私はそれが恥ずかしかった。だけど、それ以上にやっぱり、思井くんが好きなんだと再確認した。
私は、もう一度恋人の関係に戻りたかった。だけど、私と思井くんは友達からもう一度始めることになった。けど、友達からというのは私が最初に思っていたこと。
別に好き同士なのだからそれでもいいと思った。友達から恋人になった方が愛も深まっているはずだし……。
私は思井くんの気持ちを知っている。それに、私の気持ちも知られているのだ。だから、あとはひたすら愛を育めばいいだけ。二人で幸せになるために……!
それに……――)
「……氷華、また随分と頬が緩んでいますけど、何を考えているのですか?」
「う~ん、将来のこと、かな?」
「しょ、将来!? それは、一分後のことですか? それとも、一時間後のことですか? それとも、明日のことですか? そ、それとも――」
「それは……まだ、秘密だよ」
「そ、その意味深な笑みはなんなのですか!? 頬を赤らめながら、いたずらっ子っぽく舌を出す仕草で私を誘惑しないでください!」
「してないよ、別に……。ちょっと、思井くんが言ってくれた言葉を思い返していただけだよ」
「言葉……?」
(『君を二度と悲しませい。ずっと、一緒にいるよ』……。
あれって、思井くんからのプロポーズだと解釈していいですよね!? いいですよね!?
思井くんは皆の前で堂々と言ってくれた。
公開プロポーズは炎上するほど恥ずかしかったけど、将来を約束出来たのは嬉しかった。
これほど、嬉しかった日があるだろうかと思えるほど……ううん、そんな日はきっとこれからも沢山増えていく。増やしていく。
だから……――)
「そうだね――もっと、大人になった時に話してあげるよ。私の名字が変わった時に、ね」
「ひょ、氷華……それは――」
「……~~~っ、は、恥ずかしいからもう寝るね。おやすみ、お姉ちゃん!」
「あ、ま、待ってほしいのです! 詳しく聞かせてほしいのです! 氷華~~~!」
(ふふふ、これからが楽しみですね、思井くん。覚悟していてくださいよ――!)
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