第69話 ミサンガ

「これは、ミサンガ……ですか?」


「うん」


「でも、どうして……?」


「この前、デートした時、小物屋さんで高嶺さんこれ見てたでしょ? その、お詫びと言っちゃなんなんだけど……受け取ってくれないかな?」


(あの時は確か、水色とピンク色の二つが残ってたんだよね……。でも、僕が買いに行ったときにはもうピンク色しか残ってなかった。本当は僕の分も買って、高嶺さんと仲直り出来るように願いをかけようと思ってたけど……まぁ、仕方ないよね)


「……思井くん、この後、お時間ありますか? 良かったら、また、私の家に来てください!」



(――って、言われたから、甘えちゃって高嶺さんの家まで来ちゃったけど……どーしよ……。水華さんからは高嶺さんにもう二度と近づくなって言われてるのに……)


「あの、高嶺さん……水華さんは……?」


「今はいませんよ?」


「そ、そうですか……」


(いなくて良かったと言うか……謝れなくて残念と言うか……)


「少し、ガッカリしています? 思井くんはお姉ちゃんに会いたかったんですか?」


「うえっ!? そ、そんなことないよ!」


「本当ですか?」


「う、うん! それより、今日はどうして僕を……?」


「そ、そうですね。とりあえず、私の部屋に行きましょう」



(に、二度目の高嶺さんの部屋だけど……やっぱり、緊張する……!)


「思井くん、好きな所に座ってくださいね」


「う、うん……」


(――と、言われましてもですね? やっぱり、悩むんですよ!

 この前と同じで机の近くでいいや……)


「し、失礼しま……って、高嶺さん何をして――っ!」


(な、なんで、高嶺さんはいきなりタイツを脱ぎ出して……み、見ちゃダメなのに、目が……目が、高嶺さんの美脚に釘付けになって……。目を瞑ってないと……!)


「……お、思井くん……見てくれて、いいんですよ……?」


「い、いや、そ、そんな……だ、ダメだよ……」


「思井くん……私はあなたが望むなら、どれだけでも見せてあげますよ? だって、そうでないと――」


「……高嶺さん、自分の美脚をもっと大切に――」


「家に呼んだことが無駄になっちゃいます。ほら、思井くん……目を瞑ってないで触ってください……」


(……っ、高嶺さんが僕の手を取って――)


「た、高嶺さ――」


(――ん? なんか、高嶺さんの素足とは思えない固いものが……)


「え、高嶺さん……これって――」


「……はい、実は私もミサンガ買ってたんです……!

 だから、思井くんに見てもらいたかったんです……!」


(……ああ、僕に見て欲しかったのはミサンガね……ミサンガ……。そりゃ、友達の分際で素敵な絶対領域の美脚素足を何度も拝ませてもらえるなんて……あるわけないだろ!

 大丈夫……ガッカリなんてしていない! ガッカリなんて……してないんだからぁぁぁ――!

 ……って、え、このミサンガって僕が買いに行ったときにはもうなくなってたやつ、だよね……? どうして、高嶺さんが……?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る