第57話 クズ野郎

「……それで、何があったんですか、思井くん」


「……答えたく、ありません」


「はぁ……テスト返却という時間に、一人ずつ呼び出して話を聞いてるんです。せめて、何か答えてください。君の頬も赤く腫れているんですから」


「……僕が、どうしようもないクズだっただけです……」


「とにかく……高嶺さんが泣いたのは君のせいなんですか?」


「……はい」


「分かりました。もう、今日も終わりです。教室に戻ってください。君で最後です。私もすぐに戻ります」


「……失礼しました」



「思井くん……ちょっとだけ軽蔑したよ。高嶺さんと付き合ってても私は全然お似合いだと思うよ。でもさ、好きでもない相手に告白するなんて……しかも、相手の気持ちを踏みにじってまで一緒にいるなんて……考えられない」


(言い返す言葉なんてない……笠井さんの言うことは正しい……)


「はい、このクラスで何があったのかは来ていた方に聞いてある程度は分かりました。はぁ、あなた達は高校生にもなって、人の恋路をあーだのこーだの……情けない。これから、二週間――補講と追試期間の間、しっかり反省してください。

 高嶺さんが忘れていったカバンはあとで私が届けておきます」


(……ん、水華さんからメッセージ……?)



「ハァハァ……っ……」


(【氷華が泣きながら帰ってきたのですが、何か知りませんか!? 学校が終わればすぐに来なさい!】

 ……水華さん、怒ってるだろうな……。

 僕だって高嶺さんに謝りたい……。今日、謝らないと当分高嶺さんには会えない……)


「……っ、た、高嶺さん……」


「…………」


(家の前で高嶺さんが立っていたけど……こっちを向いてくれもしない……返事もない。

 やっぱり、高嶺さんも相当怒ってるんだ……。それだけのことを僕はしたんだ……)


「ごめんなさい、高嶺さん……。僕は君に告白したとき、僕は君を好きじゃなかった。ただ、面倒ごとに巻き込まれたくなくて君に告白した。

 だけど、今は――ッグゥゥ……!」


(た、高嶺さん……? いきなり、お腹を殴って……えっ――)


「す、水華さん……?」


(ど、どうして、水華さんが……高嶺さんの変装をして……。でも、今目の前にいる高嶺さんには高嶺さんにないある部分が……)


「……どこを、見ているのですか?」


「……ど、どうして、水華さんが……」


(視線を逸らしたけど……バレたか?

 でも、しょうがないよ……。だって、高嶺さんと高嶺さんに変装した水華さんは瓜二つ。見分けられる訳が……)


「……あなたのことを見損ないました。氷華があれだけあなたに思い入れているし、あなたも氷華のことを真剣だと思ったから……同士だと思ったから……なのに、あなたは氷華の彼氏でありながら私と彼女である氷華の違いにも気づかない……」


(……っ、でも、どうしろって言うんですか……?)


「……難しすぎるんですよ……」


「……っ、彼氏だったら、彼女の姿くらい後ろ姿でも分かるようになりなさい!

 ……いえ、違いますね。もう、あなたは氷華の彼氏でもなんでもありません。好きでもないあの子と付き合って、あの子の気持ちを踏みにじってさぞかし楽しかったでしょうね!」


「……っ、僕はそんなことを……」


(……本当に思ってなかったか? 僕は僕の幸せのために高嶺さんに嘘をつき続けようとしてたんだ……高嶺さんの気持ちを踏みにじっていたことにかわりない……)


「……消えなさい。そして、二度と氷華に近づかないと約束してください。さもないと、私はあなたに何をしでかすか分かりません。私の可愛くて大切な妹を泣かす人など顔も見たくありません!

 ……さようなら」

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