第56話 嘘だった気持ち

「お、遅れてきて、いきなり何を……」


「高嶺さんが思井と付き合い出したのって思井に告白されたからなんでしょ?」


「そう、です。思井くんが私のことを好きだと言ってくれて、私も思井くんのことが気になっていたから……」


「それが、嘘だよ。あの日、高嶺さんに告白するように俺が思井に命令したの」


「……!? ど、どうしてそんなこと……」


「どうしてって……気持ち悪いデブが学年一美少女に無様に告白してフラれる様を見たかったからだよ」


「お、思井くん……」


(……っ、見ないで高嶺さん……)


「……っ、そんなの私は信じません!」


「信じなくてもいいけどさぁ、仮にも彼女だったら分かるんじゃないの? そのデブが自分から告白するような勇気があるやつに見える? それにね、俺が思井に高嶺さんに告白しろって言ったらソイツは『わ、分かったよ……』って、笑顔で答えたんだよ。つまり、最初から思井は高嶺さんのことなんか好きじゃなかったんだよ。

 なのに、本当に付き合い出したかとか……なんの冗談だって笑っちゃったよ……っ!?」


(た、高嶺さんの平手打ちが九頭間に……)


「最低です……あなたみたいに神経が腐ってる人は初めて見ました! 心の底から軽蔑します! そんな人の話を私は絶対に信じません!」


「イッテェ~……別に信じなくてもいいけど。じゃあ、信じられる大好きな彼氏にでも確かめてみたら? まぁ、この状況でずぅぅっと黙ってる時点で答えなんて分かってると思うけどね」


「……っ、う、嘘ですよね、思井くん……。思井くんは私を好きでいてくれたから思いを伝えてくれたんですよね……?」


「……ごめん、高嶺さん……僕はあの時、君を好きじゃなかった……」


(僕は……最低だ。あの日、陽キャで関わりたくないランキング一位の九頭間に言われて、面倒ごとに巻き込まれたくなかった僕は高嶺さんを利用した……。高嶺さんを呼び出し、嘘の告白をし、すぐにフラれる。それだけで、全て終わるはずだった。九頭間さえ、楽しませておけば良かったんだ。

 でも、高嶺さんは裏でそんなことがあったことも知らず、答えてくれた……)


「でも、僕は……君と付き合っている内に本当に――っ……!」


(ビン、タ……)


「さ、最低、です……! わ、私は本当に……本当に思井くんのことを……っ!」


「……高嶺さん……」


(待って……高嶺さん……)


「うわ、ビックリした。どうしたの、高嶺さん?」


「た、高嶺さん……? ど、どど、どうしたんですか? 泣いたりして……」


「笠井さん……先生……。

 ……っ、す、すいません、私、気分が悪いので帰ります!」


「た、高嶺さん? いったい、何が……って、これは、本当に何があったんですか!?」


(……僕は、本当に最低だ。悪くもなんともない高嶺さんを泣かすなんて……。あんなにも、ボロボロと泣かすなんて……僕はどうしようもない、クズだ……!)

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