第38話 た、食べさてあげます
(トントントン……ザクザクザク……カチャカチャカチャ――高嶺さんが、僕のためにおかゆを現在進行形で作ってくれてる……。
恥ずかしくて見れないから、音しか聞こえないけど……やっぱり、自分でお弁当作ってるだけあって手際良い――)
「お、思井くん苦手なものってありますか?」
(……僕がイメージするおかゆは、卵とネギと白米だけのシンプルなやつ――)
「な、ないよ」
「分かりました。……ふふ、一度してみたかったんです……」
「……ねーねー、お兄ちゃん」
「……なに?」
「もう許してよ。私が悪かったから。だから、顔だけ出して亀みたいな真似はやめて……。見てて、情けないよ……」
「……分かったよ。それで、なに?」
「お姉さん、お兄ちゃんにベタ惚れしてるように見えるんだけど……本当に何したの? 洗脳とか変な薬盛ったとか……犯罪に手を染めてないよね……?」
「そんな、オロオロした目で見るな……大丈夫、珠のお兄ちゃんは犯罪に手を染めたりしていない」
「じゃあ、なんでお姉さんはお兄ちゃんに――」
(それが、僕にも分からないんだよな……いつかは教えてくれるんだろうけど……この前は内緒って言われたし……)
「二人とも。おかゆ、出来ました。あ、思井くん出ていたんですね。はい、これは、妹さんの分です」
「わ、私の分まで?」
「はい。あ、お盆、勝手に使っちゃいましたけど大丈夫ですか? あと、スプーンもなにか自分の物があるとか……」
「そんなのはないですけど……い、いただきます。ふーふー、パクッ……はふはふ……ゴクッ……~~~お、美味しいです!」
「ふふ、そうですか?
それじゃ、私は――ふーふー、ふーふー……はい、思井くん。あ、あーん、してください」
「た、高嶺さん!?」
「!? お姉さん、何して――」
「お、思井くんは風邪なんです。だから、私がた、食べさせてあげます。か、看病します!
そ、それに、この前、思井くんがしてくれたお返しです!」
「お兄ちゃん!? お返しってどういうこと!?」
「さぁ、食べてください、思井くん!」
(……っ、なんなんだよ、この状況……妹からジト目で見られて、彼女にはおかゆが乗ったスプーンを下に手を添えながら差し出されて――)
「……っ、い、いただきます! モグモグ……ゴクン……お、美味しいです!」
「よ、良かったです……!」
(いや、正直、緊張し過ぎて味なんてよく分からないよ? でも、美味しいってことだけは分かる。証拠に頬っぺた落ちそうだからね!)
「お、お兄ちゃんが……お兄ちゃんがぁぁぁ――バクバクバクバク……っ、熱いーーー、火傷した~、お兄ちゃん助けて~!」
「つ、次……どうぞ。ふーふー、ふーふー……あ、あーん」
「あ、あーん……モグモグ……うん、美味しい……」
「い、いっぱい食べてくださいね……沢山、作りましたから」
「う、うん」
「……む、無視……お兄ちゃんに助けてって言ったのに……。私は邪魔者なの!?
……って、全く聞いてくれない。二人とも完全に自分の世界に入ってる……つまんない!」
「あ、あーん……」
「あ、あーん……モグモグ……」
「もう、私の前でイチャイチャしないでよ!」
「あ、あーん……」
「あ、あーん……モグモグ……」
「私が悪かったから。謝るから。お願いだから、私を無視しないでぇぇぇ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます